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魔法使い
何度見ても、便利な魔法だと感心する。魔力での移動はしたことがない。そういう風に魔力を使おうと思ったこともないので、この便利な魔法を発明した人間はたいしたものだと、いつも思っている。
「あれさえ使えればな」
こんな島に閉じこもっていることもないのに、と思って自嘲する。
この島を出て、それから何をするつもりなのだと。
人間界を欲しいという気持ちはあるが、それには圧倒的に力が足りないことも分かっている。魔法力で魔族である体の本来の力は戻りつつあるが、そんなものだけで人間界を手に入れることなどできないことくらい、サラギには分かっていた。
魔王であるときには、圧倒的な魔力があった。それに従う部下も下僕も山のようにいた。それをもってして、キースに敗れた。魔法力を使えるようになったとて、あれより強大な力を手に入れることは無理だろう。
――だったら何故俺は生きている?
その答えは持っている。キースがいるからだ。キースが欲しいからだ。ただ、その先を持っていない。キースを欲してこの手に抱いて、それからどうする――?
答えなどない。
サラギは再び自嘲すると、洞窟前の坂道を下った。少し広がった草原の端に、作りかけの小屋がある。弟子と作りかけた小屋だ。サラギは気が向いたときにはこの小屋の続きを作っていた。見よう見まねと推測に基づいて進める作業はあまりに効率が悪い。それでもなんとか壁までは作ったが、どうにも屋根を付ける方法が分からなかった。
「家屋設計の本を買わせればよかったか」
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