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魔法使い
一人呟いたとき、だった。
空気がざわり騒いで、足元の草が揺れる。身を切るような冷たい殺気に晒されて思わず剣の柄に手を添えたサラギの前に、強大な魔法力が現れたのだ。
それはみるみる姿を持ち、そこには麗美な服装に身を包み金の長い髪を揺らしながら、魔法使いが姿を見せた。
魔法使いの姿を見るのは、焼き殺されかけたとき以来だ。冷たく睨みつけてくる魔法使いから発せられるのは、まぎれもない殺気だった。
「キースがいない間に俺を殺しに来たのか」
一応剣を構えてみるが、魔法使いを守るように取り巻く風の渦を超えて刃を突き立てられるかは疑問だった。
魔法使いは黙ったままでサラギへと歩みより、風の刃を投げつけてくる。剣で弾けないかと思ったが触れた瞬間にこちらの方が弾き飛ばされるので、これでは避ける他に方法はない。
一方的にやられるのは我慢ならない。サラギは冷気を呼びだして投げつけられた風の刃にぶつけてみる。と、それは音をたてて双方を弾き壊した。有効らしい。魔法力が持つかは分からないが、今日はキースの置いていった結晶がある。それを取り込めば、もう少し戦えそうだ。
剣を捨て冷気を呼ぶ。魔法使いの次の手に備えたが、魔法使いは立ち尽くしたままで、風を投げてこなかった。同時に身を切る程の殺気が消えていく。
「何だ、殺さないのか?」
サラギの問いかけに舌を打った魔法使いは、鋭くサラギを睨みつけ長い前髪をかきあげた。
「来い」
「キサマがこちらに来ればいいだろう」
「お前、立場が分かっていないのか。私はいつもお前達を見張っている。生かすも殺すも私の心一つなのだぞ」
「殺すなら殺せばいい」
もちろん、易々と殺されてやる気はないが。警戒を解かずに、じりと距離をつめると、魔法使いは口の端に笑みを乗せながら、呟いた。
「誰がお前を殺すと言った?」
その言葉の意味に気付いたとき、サラギは総毛立った。サラギを殺さないとなれば、魔法使いの言う「殺す」はキースに向けられたものだ。
――そんなことは許さない。
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