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魔法使い
地を蹴って魔法使いに掴みかかる――それは身をひるがえした魔法使いにかわされたのだけれど。
「キサマ!」
「まあ落ち着け。お前は獣か」
いつの間にか体の周りを風の刃で囲まれている。動けば身が裂かれるのだろうと、サラギは忌々しく舌を打った。
「お前、また一段と魔法力を身に付けているな。恐ろしいやつだ」
「――キースの結晶を持っているからな」
「ああ。だがそうじゃない。お前は魔力の代わりに魔法力をその身にいき渡らせることが自然にできている。そんなことができるのは、天才だけだというのに全く、不愉快」
吐き捨てるようにそう言った魔法使いは、おもむろにサラギの両手を握りしめた。容姿の割に大きな手はサラギと変わらない程だろう。しかし力は弱い。それでも振り払えないのは、体の周りを取り囲んでいる風の刃がいつでもサラギを貫いてやろうと待ち構えているからだ。
「お前の魔法力を封じる。取り込むことはできているようだが、まだ魔法として出力する技術がないな。これ以上、魔法が使えないように、私の名において、お前の魔法を封印する」
魔法使いが何をどうしているのか分からないが、どうやら魔法が使えなくするということなのだろう。
「私の編んだ封印だ。キースにも解けないだろう」
「面倒なことをする。今俺を殺せばいいだけだろうが」
サラギの言葉に魔法使いは嫌そうに眉を顰めて、握っていた手を更に強く握ってくる。腕力のない魔法使いのどこにこれほどの力があるのだと思いつつ、サラギも眉を顰めた。
「お前を殺したいさ、私は。でも、キースが泣くだろう」
キースが泣く。それはサラギも苦手だった。元魔王たるサラギよりも強い力を持っているくせに、まるでか弱い人間のように泣かれると、どう扱ったらよいか分からなくなる。
――……泣くのは、絶望故、だろう?
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