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魔法使い

 サラギが死ぬとキースは絶望する。魔法使いはそう言っているのだ。そこまで必要とされているのに、キースは何故、ああも苦しむのだろうか。市場へ行かせたキースの顔は、悲壮だった。 「おい」 「マリー様と呼べ」 「どうせ名など覚えられん。キースは俺を選んだくせに、時々死にそうな顔をする。何故だ」 「……そんな簡単な訳ないだろう。キースは苦しんでいる。お前を選んだことは人間を裏切ったってことだ。これから一生苦しむだろうな」   キースは自分の裏切ったものを背負いすぎている。サラギにはそう見えた。元勇者、その名は捨てろと魔法使いに言われても、キースにはそうできないらしい。サラギとて元魔王の過去を捨て去ることなどできない。今でも人間は脆弱でどうしようもない存在だと思っているし、魔力を取り戻したいと思っている。力さえ取り戻せば人間界を我が手にしたいという野望も捨て去ってはいない。  そしてキースも人間を愛し、守りたいという思いを捨て去ることはできないのだろう。これはこの先もずっと続く。  裏切ったのは魔王とて同じで、人間などとこんな風に過ごしているなど、魔族の誰が許すというのか。けれど、そんなことはサラギにとってどうでも良いことだ。それが元勇者と元魔王の差だった。 「それでも思ったより早かったな。この島を出る決意をするにはもっと時間がかかると思っていたが」 「鶏を買えと言った」 「お前がか? ……本当、お前らは――」 「キースは嫌がっていた」 「だろうな」 「理解できん」 「人間は複雑なんだよ。お前はもっと人間を知れ」  複雑というより、ひたすらに面倒なのだ。そんな人間のことを知ろうなどとは思わない。  けれど、キースだけは別だ。 「ほら、これでお前は小さな魔法しか使えない」  魔法使いの手が離されようやく自由になった手を振って、サラギは舌を打った。こんな首輪でも付けられたような状態に納得できる訳もない。だからといって、今、魔法使いをどうこうできる力がないことは知っている。それがまたサラギを苛立たせた。 「用は終わりだろう。早く消えろ」

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