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元魔王は愛がわからない・愛とは?
◆
キースは鶏を買ってこなかった。
「何故だ!」
「そもそも小屋がないと買っても仕方がないでしょう? なので、今回はこれです」
よいしょ、と声を出しながらキースが机に本を並べていく。表紙を見ただけではそれが何か分からず手に取ると、中身は小屋の造り方を図解したようなものだった。
「こんなもので造れるようになるのか?」
図を見れば、なんとなくは分かる気がするが、それでもサラギには困難に思えた。キースは口の端に笑みを乗せると、さも得意そうに胸を張る。
「私、理屈を考えるのは得意なので」
「それが何だ」
「だから、書物から造り方を理解できると言ってるんです」
「寝床もろくに作れない貴様が」
サラギの嫌味に肩をすくめたキースはどこか不機嫌に目をそらした。前は弟子に指摘されなければ分からなかったキースの感情が、最近は少し分かるようになったのだが、分かるようになるとキースは存外忙しく感情を表している。
「怒ったのか」
「違いますよ。拗ねたんです」
拗ねた。それは子供の感情ではないのか。やはりサラギには人間を理解するのは難しいことに思える。それでも今、キースが目を合わせずに口を噤んだ顔は愛らしいと思った。
「悪くない」
「何が」
「貴様の、拗ねた、顔だ」
「っ、そういうの、わざわざ言わなくていいです」
悪いことを言ったとは思わないのに、怒られた。まったく難解だと、サラギは息をつく。キースはこんな男だったろうかと思うが、もうそれにいちいち戸惑うのも疲れてきた。
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