150 / 181

元魔王は愛がわからない・愛とは?

◆  キースは鶏を買ってこなかった。 「何故だ!」 「そもそも小屋がないと買っても仕方がないでしょう? なので、今回はこれです」  よいしょ、と声を出しながらキースが机に本を並べていく。表紙を見ただけではそれが何か分からず手に取ると、中身は小屋の造り方を図解したようなものだった。 「こんなもので造れるようになるのか?」  図を見れば、なんとなくは分かる気がするが、それでもサラギには困難に思えた。キースは口の端に笑みを乗せると、さも得意そうに胸を張る。 「私、理屈を考えるのは得意なので」 「それが何だ」 「だから、書物から造り方を理解できると言ってるんです」 「寝床もろくに作れない貴様が」  サラギの嫌味に肩をすくめたキースはどこか不機嫌に目をそらした。前は弟子に指摘されなければ分からなかったキースの感情が、最近は少し分かるようになったのだが、分かるようになるとキースは存外忙しく感情を表している。 「怒ったのか」 「違いますよ。拗ねたんです」  拗ねた。それは子供の感情ではないのか。やはりサラギには人間を理解するのは難しいことに思える。それでも今、キースが目を合わせずに口を噤んだ顔は愛らしいと思った。 「悪くない」 「何が」 「貴様の、拗ねた、顔だ」 「っ、そういうの、わざわざ言わなくていいです」  悪いことを言ったとは思わないのに、怒られた。まったく難解だと、サラギは息をつく。キースはこんな男だったろうかと思うが、もうそれにいちいち戸惑うのも疲れてきた。

ともだちにシェアしよう!