151 / 181

愛とは?

「と、とにかく。私が小屋の造り方を学んで貴方に教えるので、貴方はその間、図鑑でも見ててください」  指されたのは机に残った赤い皮表紙の図鑑だった。手に取ると、小屋の造り方よりもずっしりと手に重さが残る。城にいるときに見たものと少し似ている気がして興味深い。せわしなく頁をめくると、色のついた頁に出くわす。  それは、キースの彫っていた木彫りの蝶に似ていた。 「これが蝶か」  思わず呟いたサラギの横から図鑑を覗きこんで、キースが、ああ、と相槌を打った。 「そうですよ。美しいでしょう」  確かにサラギの知っている蝶とはまるで違う。そこに描かれていた繊細な生き物は、キースのいうように硝子を透かしたような色をしていて、知らず息を飲んだ。  薄紫の羽に漆黒の線を描く、まるで職人が作り上げたような繊細さ。これが自然に生み出される生き物だとは到底思えない。 「これは飛ぶのか」 「飛びますよ、立派な羽でしょう? 大きさはそこに描かれている通りなので、手に取ることもできますよ」  欲しい。久しぶりにサラギは強く思う。こんな生物が自然発生しているのだ。人間の作りだすものが美しいのも納得だ。力さえあれば、この人間界を全てこの手にできるというのに。  他にも珍しいものがないか、サラギは夢中で頁をめくった。 「これ良い図鑑なんです。色を付けているのは珍しくて。高かったけど、貴方がそんなに喜ぶなら買って良かった」 「だから鶏の分、金が無かったのか」 「違います」  キースは何食わぬ顔で笑ったが、きっとサラギの言ったことは当たっていたのだろう。それくらいは、分かる。サラギの隣から離れようとしたキースを抱き寄せて、口付ける。何故か、そうしたかった。 「んっ、なに、急に」 「分からん、したくなった」 「貴方はいつもそれだ」

ともだちにシェアしよう!