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愛とは?
口付けは愛を確かめる行為だと、キースは言った。けれどサラギにはそれが分からない。そうしたいと思ったときにそうするだけなのだが、その理由を問われても答えなどない。
そんなことは分かっているとでもいうようにキースはサラギから離れ、洞窟の隅に目をやって動きを止めた。その視線の先には、魔法使いが置いていった本がある。
「え、何です、この絵本?」
「魔法使いが置いていった」
「マリー、え、マリーが、来たんですか!? いつ!」
キースの顔色が変わる。青ざめた肌の上でその目が一瞬、虚ろに揺れた。こんな顔は見ていられないけれど、どうすればキースがいつもの表情に戻るかなど、サラギには分からなかった。
「貴様が市場に行っている間に来た」
「……私がいない間を狙って、か」
「見張っていると言ってたな。それから俺の魔法力を封じると」
マリーが何かをしたことを説明しながら両手をキースに差し出すと、キースはサラギの両手を取って、強く握りしめた。
「魔法力を封じる? そんな魔法、知らない……だとすれば、術の類かもしれませんね」
「貴様でも解けないだろうと言っていたな」
キースは黙ったままでサラギの両手を見つめている。その顔が、まだ暗い。キースが何を考えているかは分からないが、この表情は気にいらない。この顔をしているとき、キースの感情はサラギには向かっていないからだ。
「俺を殺すと貴様が泣くから、殺さないらしいぞ」
魔法使いの言っていた言葉の中からキースが喜びそうなものを選んでみると、キースがそろり、と顔を上げる。その目に力が戻っているのを知って、サラギはほっと息をついた。
「泣くからって。私は子供じゃありませんけど」
減らず口も戻ってきたと同時に、暗かった顔色が変わる。
――まったく、面倒なやつだ。
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