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愛とは?

「それにしても、何故絵本なんです?」 「知らん。愛を知れなどと言ってたな」 「愛って……絵本で?」  絵本をめくりながらキースの頬が柔らかに緩んだ。 「あー、昔よく読みました」  キースの持っている意味の分からない文字が並んだ本などとはまるで違う、子供向けに作られた本を、キースは嬉しそうに読んだ。 「つまらなくないのか」 「懐かしいですよ。子供の頃よく読んだんです」 「貴様も子供だったことがあるんだな」 「当たり前ですよ」  本から目を離したキースが呆れたようにサラギを見つめてくる。人間の子供は人間の中でも極めて脆く弱い。このキースにも誰かに庇護されなければ生きていけないときがあったのかと思うと、それは不思議でもあったし、自分の知らないキースの姿を思うと妙な気分になった。 「それの意味が分からん。兔が死んだ話だろう?」 「そうですけどね。あー、うん、だからマリーはこれにしたんですかねえ。これは愛を知らない兔が愛を知るまでの話なんです」 「伴侶が死んで泣けばいいのか?」 「うーん。まあ、愛なんて形も定義もありませんし、教えられるものでもないですし」 「教えろ」  愛を知りたい、とは思わないが、キースの口からその言葉が語られるのは悪くないとサラギは思った。柔らかな口調は湯に浸かっているときほどの心地よさがある。  キースは絵本を机に置くと、困ったように笑った。 「難しいこと言いますねえ」  何か考えているのかキースの目がそっと伏せられる。その目が開かれるのを待っていると、しばらくしてキースが静かに口を開いた。

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