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元魔王は愛がわからない・元勇者の事情 2
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鶏小屋を作るのは想像以上に骨が折れた。
作り方を本で学んだとはいえ、実際に木材を手にしてみると勝手が違うのは仕方ないだろう。本番はサラギの手を借りるが、一度試作をしておきたかったのでサラギが起きてくる前にと木を切ったまでは良かった。ただどうしても本職のワグや器用なサラギのように綺麗な木材にできない。
のこぎりの使い方がおかしいのかな、ともう一度木を切ろうとしたところでサラギが起きてきた。
「何の騒ぎだ」
「おはようございます。いや、ちょっと工作を」
「鶏小屋なら俺が作る。貴様は工程を説明しろ」
「試作なんですよ」
「そんなもの必要ないだろう。それを貸せ」
のこぎりを奪い取られてキースは肩をすくめた。きっとまた「使えん」と言われるのだ。けれど、サラギは何も言わず、キースが切り出した木材を集めてから、キースの指示を待っているようだった。
――貴方も変わりましたねえ。
以前のような高圧的な態度が少し減り、キースを見る目に柔らかさが加わった気がする。
――私の目が曇っているのかもしれないけれど。
それにしても驚いたのは、サラギが「愛を教えろ」などと言ってきたことだった。
マリーに何か言われたらしいが、それにしてもだ。元魔王が愛を知りたいとでもいうのか。マリーが子供向けの絵本をサラギに渡していたのはおかしかった。そんなもので魔族に愛など通じるはずもない。
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