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元勇者の事情 2

「網を貼るぞ」 「ああ、はい」  渡された金網をサラギは器用に小屋の壁として貼っていく。釘使いも慣れたものだ。 「凄いですねえ」 「貴様は使えん」 「あ、やっぱり言われた」  確かにこの件ではまるで役にたっていないので、仕方ないかと苦笑するキースに、サラギは小さく呟いた。 「貴様は使えんままでいい。俺がすればいいだけだ」  それは結構な殺し文句ですよ、と言ってやりたい。キースはそっと胸元を抑える。こんなことが嬉しいなんて、自分はどれだけサラギに甘いのだろうと思う。けれど、仕方がない。世界は「惚れた方が負け」と相場が決まっている。そしてそれは幸福なことでもあるのだ。  だからサラギは愛など知らなくてもいい。  サラギが愛を知ったら、キースはそれが欲しくなる。求めて得られなかったら、と思うとぞっとする。サラギはこのままでいい、変わらなくていい、それがキースの望みだった。 「小屋は今日できるぞ。鶏を買ってこい」  サラギは少し楽しそうだった。それほど鶏が欲しいのかと呆れながらも、随分可愛いなあと思う。 「貴方、生き物飼ったことあります?」 「魔物なら使役していた」 「そういうのじゃなくて。えーと、愛玩用の」 「あると思うか?」 「ですよねえ。鶏買ったら、貴方も世話するんですよ、できます?」  言いながら、これではまるで子供に諭しているようだと、キースは吹き出した。

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