157 / 181
元勇者の事情 2
「網を貼るぞ」
「ああ、はい」
渡された金網をサラギは器用に小屋の壁として貼っていく。釘使いも慣れたものだ。
「凄いですねえ」
「貴様は使えん」
「あ、やっぱり言われた」
確かにこの件ではまるで役にたっていないので、仕方ないかと苦笑するキースに、サラギは小さく呟いた。
「貴様は使えんままでいい。俺がすればいいだけだ」
それは結構な殺し文句ですよ、と言ってやりたい。キースはそっと胸元を抑える。こんなことが嬉しいなんて、自分はどれだけサラギに甘いのだろうと思う。けれど、仕方がない。世界は「惚れた方が負け」と相場が決まっている。そしてそれは幸福なことでもあるのだ。
だからサラギは愛など知らなくてもいい。
サラギが愛を知ったら、キースはそれが欲しくなる。求めて得られなかったら、と思うとぞっとする。サラギはこのままでいい、変わらなくていい、それがキースの望みだった。
「小屋は今日できるぞ。鶏を買ってこい」
サラギは少し楽しそうだった。それほど鶏が欲しいのかと呆れながらも、随分可愛いなあと思う。
「貴方、生き物飼ったことあります?」
「魔物なら使役していた」
「そういうのじゃなくて。えーと、愛玩用の」
「あると思うか?」
「ですよねえ。鶏買ったら、貴方も世話するんですよ、できます?」
言いながら、これではまるで子供に諭しているようだと、キースは吹き出した。
ともだちにシェアしよう!