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元勇者の事情 2
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◆
鶏を買ってきた日のサラギは随分と可愛らしかった。
市場から戻ったキースに駆け寄り、手にしていた竹網の籠を頼んでもいないのに受け取ってくれる。中を覗き込んで
「茶色?」
ポツリと呟いたのを聞いたときには吹き出してしまった。これでは本当にまるで子供だ。
「白と茶を一羽ずつ買いました。というか、市場に鶏はいなくて、商人の知り合いが飼っていた子を譲って貰ったんです」
両方とも雌だから子は産めないが、卵は産むので問題はないだろういうことだった。雄がいればよく鳴くので朝を知らせる鐘の代わりになっていいだろうと思ったが、雌だけではあまり鳴かないらしいのは、少し残念だ。
――まあ、卵が採れればそれで十分ですしね。
竹籠を覗きこんでいるサラギを横目で見て、こみ上げてくる笑いをこらえながらキースは竹籠を取り上げる。
「おい」
「貴方の作った小屋に入れてあげましょうね。はい、優しく扱わないと死んでしまうので気を付けて」
竹籠から取りだした茶色の鶏をサラギに差し出すと、その足元が一歩、あとずさった。
「え、貴方、鶏怖いんです?」
「違うわ! 俺の手で触れれば壊れるのではないのか?」
「ああ、だから優しく抱くんです。こうやって胸元に寄せて足元をしっかり支えてあげて。ほら、可愛いですねえ、撫でられるのが好きな子もいるらしいですよ」
茶色の鶏はキースの腕の中で静かにおとなしくしている。まだ村で暮らしていた頃、隣の家で鶏を飼っていた。時々遊んでいたことを思い出して、キースはそっと唇を噛む。
あの生活を壊したのは、目の前の男なのだ。
――本当、私って罪深い。
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