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元勇者の事情 2

 過去を思い出す度、キースは己の罪深さを認識せねばならない。罰としてそれを背負うのは当然だと思っているが、この想いを抱く度にサラギが眉を顰めることが辛かった。  元魔王のくせに、サラギは最近キースの感情を読んでいる。心が落ちると、いつも声をかけてくるのはその為だろう。サラギなりにキースを何とかしてやろうと思っているのだと分かったときには感動すら覚えたが、気を遣わせているかと思うと罪悪感にかられるのだ。  裏切ったものと選んだもの、そのどちらにも罪悪感を抱くなど情けない。そう思うのに、時折襲ってくるこの感情の波を未だキースは上手く乗り越えられないでいる。 「キース、鶏を寄こせ」 「あ、はい。大丈夫です?」 「俺にできないことがあると思うか?」  思いますよ、と言うのはやめておこう。静かにしている鶏をそっとサラギに差し出し、サラギが両手で鶏を受け取った。途端に鶏が暴れ出す。 「何故だ!」  サラギの手を蹴った鶏はばたばたと羽をばたつかせ、器用に着地して小さく一声鳴いた。怪我はないらしく安堵しながらもキースは笑いがこらえられなくなる。 「貴方、何でもできるのに鶏は抱けないんですね」 「黙れ。もう一羽いるだろう。寄こせ」  キースの手から竹網を奪い取ったサラギは残っていた白い鶏を取り出すと、力ずくで胸元に抱いた。驚きすぎて動けないのか、鶏は固まっている。それを見ると、もうキースの笑いは止まらなくなる。 「どうだ、これくらい容易いわ」 「そ、そうですね、貴方、凄いから」   元魔王が鶏を抱いている。それはさも得意そうに。どうしてこんなに愛らしいのかと思う。鶏を抱く姿は驚くほど似合わないのに、いつまでも見ていたい気分になって、キースは思わずサラギの頬に口付けた。 「キース?」 「そろそろ下ろしてあげてくださいね。そっと下ろすんですよ?」 「……面倒だ。投げればいいだろう?」 「駄目です。静かに地面に下ろしてください」

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