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元魔王は愛がわからない・鶏の名は

◆  キースがまた奇妙なことを言いだした。 「鶏の名前考えてくださいね」  黙り込むサラギに構わずキースは鶏を小屋から抱きあげて撫でている。相変わらず鶏はキースの腕ではおとなしい。世話をしろと言われたがサラギが抱きあげると途端に暴れるので、結局はキースが小屋への出入りをさせている。試しにもう一羽を抱きあげてみたが、やはり手を蹴られた。 「この俺を足蹴にするなど!」 「貴方が怖がっているからですよ」 「この俺が鶏を怖がっている? 馬鹿なことを」 「壊しそうだと思っているでしょう。案外、丈夫ですよ」  そうはいっても、こんな小さく脆弱なものを壊さぬように扱うのは難しい。キースのやり方を見て真似てみているというのに、鶏は違いに気付くらしい。  それはそうと、鶏の名だ。 「鶏に名など付けてどうなる」 「愛着がわくでしょう? 二羽いるんだから区別もできますし」 「どうせ名など覚えられん」  未だ人間ではキース以外の誰の名も覚えられない。耳に入ってくるには入ってくるのだが、残らないのだ。キースの口からよく出る魔法使いや弟子の名も聞けば認識できるのだが、口にしようとしても出てこない。そんなものなのに、鶏の名など覚えられる訳もないのだ。キースもそれは分かっているのか、苦笑がちに続けた。 「ものは試しじゃないですか。貴方も自分で付けた名なら覚えられるかもしれないでしょう?」  心底くだらないと思うのだが、キースに笑顔で押し切られると否と言いきれなくなるのはどういう訳だと思う。結局これも笑顔で押し切られるのだ。

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