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鶏の名は
いくらなんでもこれには呆れる。魔王と勇者の最後の戦いは死力を尽くし、全てを賭けた闘いだった。その死線を耐え抜いた剣は、いわば戦友ともなるはずだ。サラギは今使っているものを初めて手にしてからどれくらいになるか分からないが、手放そうと思ったことなどない。
――それを、この男は。
誰かにあげたなどと。いくらなんでも、理解できない。この執着のなさは何だろうか。薄ら寒さすら感じながら、サラギはキースを睨んだ。
「剣士だろうが、貴様は」
「元勇者ですよ」
「だが、武器は剣だ。それを剣士というだろう?」
「そうなんですかね? まあ、でも今は違いますし。貴方と手合わせするときか草を刈るときくらいしか使わないですから、安物でいいんです」
酷く、不愉快だった。キースにとって執着を持たないものというのは、こうも安易に手放せるものなのだ。
「それより、名前、決めました?」
そのくせこんなことにはこだわる。苛々するのだが、自分が何に苛立っているのか、サラギには分からない。キースの手から剣を奪い取ってまじまじと見てみるが、打ちが荒くとても良いものとは思えなかった。
「あの、返して貰えます?」
「……こんなもので俺の剣を受け止められると思われるのは、許せん」
「――実際、貴方はこの剣にだって勝てないでしょうに」
「何だと?」
「真の剣士は剣にこだわらないとも言いますよ?」
不敵な笑みを浮かべながらキースがサラギの手から剣を取り返し、そのまま眼前に突きつけた。キースはそう言うが、魔法力を取り込みつつある体でキースに力で打ち負けるとは思っていない。
久しぶりに向けられる殺気を込めた炎が揺れる黒い瞳に見惚れながら、サラギは鼻を鳴らした。
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