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鶏の名は
「サラギ」
発されたキースの声は聞いたことがない程に低い。何を言われるかと身構えたサラギに、キースは目の奥がまったく笑っていない笑顔を向けると、言い聞かせるようにゆっくりと言った。
「私、剣を買いにいきますから、貴方は鶏の名前を付けておいてくださいね」
否と言わせぬ迫力を込めたキースの言葉に、サラギは黙って応えることしかできない。
キースの行動は早かった。いつものように結晶を作ってサラギに渡すと、何も言わずに移動魔法を唱えて姿を消した。
一人残され、サラギはやっと息をつく。あれ程の怒りを晴らす為、戻ってきたら剣を打ちこまれるかもしれないと覚悟だけはしておく。
「それと、これの名か」
畑の隅で地面をつついている鶏を見つめて途方に暮れているとき、だった。
覚えのある気配と魔法力の冷たさを感じて身を構えた。
目の前に、魔法使いが現れる。
「よう、元気か」
相変わらず殺意を含んだ目でサラギを見つめる魔法使いに、サラギは好都合と手を打ちたくなった。人間である魔法使いなら名を考えることなど容易いだろう。鶏の名を考えさせられる。
「いいところに来た」
「はあ? お前が私を待っていたとでも?」
嫌そうに眉を寄せる魔法使いに、サラギは口の端を持ち上げて笑って見せた。
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