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キース
お前の為に。
その言葉を聞いて、サラギは一つ、分かったことがある。
時々、キースに対して戸惑いと苛立ちが襲うときがある。それは「キースがサラギの為に」何かすることだ。屈したものが尽くすというのは当然のことなのだからそれ自体は別にいい。問題はキースが「己の為に」何かすることが極端につり合わないと感じるからだ。
サラギの欲しがったものはなんだかんだ文句を言いながらも揃える。どれだけ抗っても抱かれた。
比べてキースには自分の欲を自分で叶える気がないのかと思える程で、それは執着のなさを見ていても分かることだ。人間のことが人間にしか分からぬならば。
サラギは魔法使いを見つめた。
「剣士のくせに剣にこだわらないのはどういうことだ」
「なんだ、急だな。キースのことか? ああ、まあ、あいつは剣の性能が強さと釣り合うなどとは思わないからな。剣という体裁と整えていればそれでいいと思っているんだろう」
「剣士にとって剣は命を預けるべき物だ。それでもか? それだけじゃない。あいつの執着のなさは何だ? 人間は欲深い、そういう生き物だろうが」
見つめた魔法使いは驚いたように目を見開いて、それからすっと閉じる。金の長い髪が風になびいて日の光を浴び光るのをサラギはじっと見つめた。
魔法使いはしばらく口を開かなかった。何かを考えているのか、それとも何も教える気がないのか、黙ったままでサラギを見つめている。大きな目の光がサラギを責めているようで、それは甘んじて受けた。
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