171 / 181

元魔王は愛がわからない・衝動と答え

 移動魔法で戻ったばかりのキースは隙だらけだった。その腕を掴んで引き寄せ、力任せに首に噛みつくと怒りを含んだ悲鳴が上がる。 「何するんですか!」  その声でいつもサラギを煽り、欲を暴く。  激しい殺気を放つかと思えば簡単に手折れそうな弱い顔もする。そうやってキースはサラギを揺らして、人間にしてきたのか。 「俺は、人間などではない」 「はい? 知ってます。ちょっと、放して」  口を離したキースの首筋はサラギの歯跡がついて赤く鬱血していて、美しいと思った。  ――またこれだ。  キースに煽られてキースが欲しくなる。まるでキースの意思で操られているかのように。  ――そんなはずがない。俺は俺としてキースが欲しいだけだ。  己の欲を押し通しているのだから、キースの思惑にはまっているはずがない。  掴んでいた腕をひねり上げ爪をたてると、今度こそキースの体に怒気と殺気がみなぎった。 「買ってきたばかりの剣の切れ味、試したいんですか?」  斬られるなどまっぴらだ。サラギはキースをそのまま洞窟の石壁に投げつける。背中を打ちつけたキースが細く唸って起き上がる前に、その身に飛び乗り押さえつけた。睨んでくる目が何か言いたげに揺れたが、そんなことはもう知らなかった。 「今、抱く」 「はっ、何言って――嫌です」 「貴様の意思など知らん。俺が抱きたいから抱くと言っているんだ」  もうキースの言葉に耳を貸すつもりはなかった。今は己の欲を押し通すことだけが重要だった。  キースの両肩を掴んだまま、乗っていた体から退き同時にキースの身を引き起こす。炎を孕んだ黒い瞳を見たくなくて、腹の方を洞窟の石壁に押し付け、項に歯をたてた。 「ぅっ……」  キースが声を噛む。  項はキースの悦ぶ場所だ。そこを責めるとキースが甘い声を漏らすことは知っているが、今日はそんなことはしない。ただ己の欲情を晴らす為だけに抱く、そう決めたからだ。

ともだちにシェアしよう!