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衝動と答え

 キースの下衣を爪で引き裂き、露わになった尻の孔に爪をたてる。服を裂くとキースは怒るので、これまでは気を付けてきたが、思えばそんなことですらキースの支配下にあるということではないか。 「やめ、サラギっ」  受け入れる場所を軽く解してそれを押し入れると、キースの顎が跳ねた。固い体を軟膏で緩めることなく分け入る狭さは格別で体が熱く震える。 「っ、ぁ」  キースの声にいつもの蕩ける甘さはなかった。ひたすらに苦痛を耐える息遣いに、熱くなった体が少しずつ冷えていく気がした。  ――何故だ。俺は欲を満たしているというのに。  前に抱いたときはこんなではなかった。快楽を堪えなくなったキースの表情は淫らで美しく、極上だった。これを手に入れればそれだけで満たされると、そうまで思った。  知らず、舌を打つ。  ――快楽が欲しい訳じゃないのか俺は。  その答えはとうに出ている。キースが欲しい、それだけだったはずだ。その欲を抱いている限り人間に近づいてしまうのだとすれば、どうしようもないではないか。  動きを止めたサラギを不審に思ったのか、キースが首だけで振り返る。 「貴方、何か、あったんですか」  苦痛に震えているくせに、何故サラギのことを聞くのか。これが魔法使いの言う「自分をおろそかにする」キースなのだろうが。  サラギはそれが嫌だった。だからキースがサラギだけを優先すると苛立って途惑った。それが魔法使いの言った「誰かを思いやる気持ちは愛に通じるもの」だというならば、人間に近づけているのはキースのせいではなく、己の想いのせいだと、気付いてしまった。  貫いていた身を抜きだし、腹を壁に押し付けていたキースをこちらに向かせてから胸に抱きしめる。溢れてくる想いのことなど知らぬ。それでも、こうせずにはいられない。 「本当、どうしたんですか」  胸の中でキースがくぐもった声でそう言ったが答えられないでいると、やがて溜息が聞こえた。本当はずっと抱きしめていたかったが、渋々キースを解放してその目を覗いた。  黒い瞳は、暗く揺れている。声を失うサラギにキースは消えるような声で呟いた。 「こんな、物みたいに扱われるのは、もう御免です」

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