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第6話
「今日から4日間。社員旅行と言うことで取り敢えず乾杯!」
凄く適当な課長の挨拶と乾杯を交わして目の前にある料理を見た。
天ぷらや釜飯、季節の山菜と言ったThe・和食といった料理が並んでいた。
味噌汁はふわりと湯気がたち食欲を誘う香りがここまで来た。
俺は取り敢えず近くの上司の空いたグラスにビールを注いだ。
「先輩…!グラスが空いてるじゃないですか!注ぎますよ俺。」
こんな感じに上司の機嫌も取りつつ、近くの女性社員の烏龍茶やお冷などの飲み物・おしぼりの確認をしつつ俺もやっと食事にありつける。
少し冷えてしまったが、天ぷらをサクッと食べれば香ばしい衣の香りと山菜の独特の香りが広がって幸福感に溢れた。
昔から作法やマナーに厳しい母親に育てられた為、色々と染み付いている。案外、こういう時にとても役に立つ。綺麗に食事をしているだけでその人の印象って良くなったりする事もあるし。
そんな事を考えつつ味噌汁を飲んでいると、ふと小林と目が合った。と思ったら佐藤さんの方へ顔を向けた。それに釣られるように視線を移すと佐藤さんと目が合った。彼女はピクっとした後に視線を逸らして近くに居たたなゆいさんと話し始めてしまった。
何だったんだ?意味が分からずもう一度、小林を見ると呆れたように俺を見ていた。
何なんだコイツら。
「暁~!!瓶ビール追加で持ってきて!」
暫く料理を食べていると今度は先輩からビールを持ってこいと呼ばれてしまった。
「はーい。」と返事をして立とうとすると、「先輩」と呼ばれた。
「んー?」
追加で何か頼まれるのかと思い振り向くと、瓶ビールを持った小林かいた。
「これ今、頼まれたやつです。代わりに渡してきます。」
そう言うと小林は、頼まれた先輩の所へ行き瓶ビールを渡していた。
意外に優しい一面がある事を知り、また心臓がドクンッと鳴った。いや、それよりその優しい一面を常日頃から出して貰えると嬉しいんですけどね?
「ありがとう。おかげで助かった。」
戻ってきた小林にそう声をかける。すると俺の目をじっと見て言った。
「誰かに使われている貴方を見るのは何だか気持ちが悪いですからね。」
あー。そうだ。コイツはこんな事を言う奴だった。
「そう?俺って人を使う方がかっこいい?」
俺も負けじと軽くあしらうように返す。
「そういう事じゃないです。」
しかし、俺の方が簡単にあしらわれてしまった。小林といると何だか調子を崩されるな。
少し、心地が悪い。
◆◇◆◇◆
酒の席では案の定酔っ払った人が出てくるわけで…。
「課長ー!起きてください。もう、お開きですよ。」
食事が終わり皆が帰って行く中で、酒に酔って寝ている課長を起こしている。
「んぁ?何だ…?暁か?…どうでもいいから部屋に俺を運べ~」
「嫌ですよ。ほら、課長起きてください!」
いくら声をかけても反応しない為、俺は仕方なく寝ている課長を起こして何とか立たせた。
「どの部屋ですか?」
「山吹の部屋だ~。そのくらい把握しておけー」
ああ。口煩い。重いし。そんな課長と肩を組みながら部屋に向かっている。廊下の曲がり角で誰かとぶつかった。鈴木だった。誰か探していたらしく俺の状況を見て「あー!」と叫んだ。
「課長ー。部屋に帰ってこないと思ったらこんな事に…。すみません先輩~!後は俺に任せてください…!」
どうやら課長と同じ部屋だったらしく中々帰ってこない課長を探して回っていたらしい。
鈴木は俺の肩に全体重を掛けてほぼ寝ながら歩いている課長を受け取った。
「よいしょっと!重っ…!先輩よくここまで運べましたね…ありがとうございます。じゃあ、おやすみなさい!」
「う、うん。気をつけろよ。おやすみ。」
騒がしく部屋に戻っていく鈴木を見送って俺は自分の部屋に帰った。
襖の締まりきっていない隙間から賑やかな声が聞こえてきた。
そっと中に入ると、たなゆいさんと佐藤さん、そして俺の同期の|佐々木 灯《ささき あかり》が来ていた。女の子のような名前だがれっきとした男だ。
小林も珍しく缶ビールを片手に佐々木と何か話していた。
「おつかれさまでーす。何ー?盛り上がってるね。」
俺はその場のテンションを作り近くに座っていた、たなゆいさんに声をかけた。
「おっ!暁帰ってきたか!」
俺に気付いた佐々木が人懐っこい笑顔で俺を呼んだ。
「さっき、ここで集まることになって皆で飲み直してるの。はい、ビール。」
そう説明を加えて、たなゆいさんがビールを差し出した。俺はそれを受け取って佐々木と佐藤さんの隣に座った。
畳の和室に低いテーブルと座椅子があり、皆でツマミと酒を囲んでいる。
「それで?何か楽しそうな話をしてたみたいだな?」
「ああ。お前の入社した時の武勇伝を話していたんだよ。」
「武勇伝…?何かあったか?」
思い出すものがなく聞き返すと、小林がニヤリと口角をあげて「入社当時の先輩はだいぶ俺様だったんですね。」と言ってきた。
「本当にそうよね。でも、そのおかげで私たち同期も沢山助けられたわ。」
「そうそう。」
なんの事が分からず俺は必死にその時の事を思い出していた。
入社当時の俺はまだ恋人がいて、仕事も積極的に色々とこなしていっていた記憶がある。確か、その時の上司を叱った事があったか?
恐らくその事を佐々木とたなゆいさんは話したのだろう。
「暁さんは恋人とかいた事あるんですか…?」
すると突然、可愛らしい声と上目遣いで俺に問いかけてくる佐藤さん。その質問を聞いて同じく恋バナ好きのたなゆいさんがこの話題に食いついてきた。
「私も気になる!」
期待大の目線を受けて、これは何か言わないと解放されないなと悟る。
仕方なく俺は前の恋人の事を大まかに話すことにした。二度と繰り返したくない恋愛を。
「そうだなー。一応俺も恋人はいた。今はフリーだけどね~。」
出来るだけ落ち着くことを意識して話始めた。
「別れたの?」
眉を寄せて微妙な顔をしたたなゆいさんが聞いてきた。
「そう。というか、相手が病気で亡くなってね。その人が死んだ時、「一生を掛けて2人で幸せになるはずだったのにな。」って思った。それに、病名を聞いた時に「自分の事は忘れて」って言われて。無かった事にされてさ。あの頃は悔しかったなー。
って何か空気が重いよ?大丈夫?」
ふと周りを見ると佐々木や小林、たなゆいさん。佐藤さんまでが俺を見て眉を寄せていた。
「暁…お前…。辛かったな。」
ふと口を開いた佐々木は半泣き状態で俺を慰めてきた。
「大丈夫だって。昔のことだし、今は全然吹っ切れてる!気にすんなって。」
「暁くんが言うなら大丈夫でしょう。ほら、佐々木!アンタの恋バナ聞かせなさい?」
今度はたなゆいさんの標的が佐々木に変わった。
「え?俺ー?俺は大体女の子に捨てられちゃうので今も昔も長続きしません。」
「うわ。お前可哀想~」
「うるせぇ。俺は暁みたいにモテないのー」
そんなワイワイやっていると、たなゆいさんが小林に標的を移した。
「小林くんは恋人いる?」
すると小林は少し考えて口を開いた。
「いた事はありますけど、去るもの追わずって感じですね。」
それを聞いて俺は妙に納得してしまった。来る者拒まずって所が無いのは小林の特徴だろ。
「へぇ。イケメンは贅沢だな。羨ましいよ~」
「そう言う暁さんは来る者拒まずって感じしますね。」
「あはは~。そうかもー。」
本当はセフレとなら来る者拒まず去るもの追わずって感じだけど。恋人は来る者拒んで去るもの追わずって感じだね。
「佐藤さんは?どうなの?」
「えっ!」
振られると思っていなかった佐藤さんは可愛らしく驚いていた。
「えっと…付き合った人はいますけど。今はいません。」
「えー。そうなの?今は好きな人とかいるの?」
「…はい。居ます…。」
佐藤さんは顔を真っ赤にしながらそう答えた。佐々木は小さな声で可愛いと漏らしていた。俺もその場のノリに合わせてやいのやいの言ったが女の子に興味はない。
「そうなんだ~。上手くいくと良いねぇ。」
俺は缶ビールを口に近付けながら、言った。
すると彼女はぱぁっと表情を明るくして「はいっ!」と元気よく答えた。
そんな賑やかな二次会は深夜1時に幕を閉じた。
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