8 / 23

第8話

小林side 食事を終えみんな帰っていく中、1人で片付けを手伝っている人が居た。そう。暁さんだ。片付けなんて旅館の人に任せればいいものを。どうしてわざわざ出掛け先の、しかも旅館の人にまで気を使っているのだろう。 忙しなく片付けを手伝っている暁さんを見て、俺は仕方なく彼の手伝いをし始めた。 「おおー!さすがイケメン気が回る!でも、もう遅いしそこの分片付けたら先部屋戻っていいぞ~。」 また、この人は…。どうして自分の事を犠牲にしてまで他人に尽くすのだろう。今日だけじゃなく、前に佐藤さんを課長から助けた時も。それに、この人をおちょくる態度本当に嫌いだ。 「分かりました。畳で足を滑らせてコケないでくださいよ。」 「お、言うね。小林くん?」 俺はまた絡んで来ようとすろ暁さんを無視してお膳を運び出した。旅館の女将さんがお礼を言ってくれて、どこか悔しいが少し暁さんの行動の原動力が分かった気がした。 それから暫く言われた所を片付けていると、22時を超えていた。それに気付いた暁さんは俺に部屋に帰るように言った。 「でも、まだ言われた所をやり終わってませんよ?」 「大丈夫!もう、遅いし小林くんの夜の1人の時間も欲しいでしょ?」 そう言われ、少し粘ってみたが彼の方が口が上手くあしらわれてしまった。俺は仕方なく「失礼します」とだけ言いその場を去った。 残り結構な量があったが、あれ全部片付ける気だろうか。 まぁ。でもそこまで馬鹿じゃないかあの人も。 ◇◆◇◆◇ 部屋に戻ると旅館の人が布団を敷いてくれていた。 冬だと言うこともありやはり部屋は少し肌寒い。近くにあったエアコンのリモコンを取り、暖房をつける。 だんだん暖まったところで明日の予定を再確認する為に、スマホのスケジュール帳をみた。 明日の午前中にはこの旅館を出発する。 取り敢えず明日バタバタしないように今から荷物を纏めておくことにしよう。 親への土産や友人への土産物の中にふとお守りが出てきた。そのお守りは先輩である暁へ買ったものだった。しかし、今冷静に考えてみると同じ場所に行った為、同じものを購入しているに違いない。同じものでなくとも似たようなものは持っているだろう。 少し、迷ったが俺はそのお守りをそっとバックにしまった。 それから少しして自分の趣味であり、習慣である小説を読んでいると、部屋の前から声が聞こえた。襖を開けてみるとそこには佐藤さんが立っていた。 「どうしました?」 「えっと!その…」 俯いてしまった彼女に少し焦れったさを感じた俺は彼女の目的である暁先輩は居ないと伝えた。 どうして暁さんが目当てだと分かったかなんて、ここ数日の彼女を見ていれば何となく察することが出来る。 「そうですか……。分かりました。」 居ないと分かった佐藤さんは少し恥ずかしそうに戻って行った。 彼女は暁さんの何処が好きなんだろうか。あの、腹の裏を意地でも見せなさそうな人が。 今までであの人が1番壁を感じる。誰に対してもそうだ。あの飄々とした性格と掴めないあの感じが苦手だ。 でも、一昨日の恋人の話をする暁さんは彼の本音だったんじゃないかとも思う。 今までで1度も見たことの無い顔をしていた。 自分の入社前の暁さんの話を聞いた時は今と全然違った。何がどう変わったかなんてはっきり分からないけど、一つあげるなら、仕事の積極性から全く違うと思った。 企画リーダなんてやってた程、優秀だったらしい。それも今では考えられない。 リーダなんて面倒臭いと何回俺に押し付けようとしてきただろうか。思い出しただけで腹が立つ。 そんな事を考えながら思ったのは、俺は意外と暁さんの事を知らないということだ。 別に特に知りたい訳では無いが、少し気にはなるかもしれない…? そんな事を考えて過ごして居れば、時間は23時を過ぎようとしていた。 さすがに暁さんが帰ってこないので俺は暁さんの様子を見に行った。 すると、廊下の曲がり角から人の話し声が聞こえてきた。 俺は気にせず通り過ぎてしまおうとしたが、話題的にそれが出来なかった。 佐藤さんが暁さんへ告白していたのだ。俺は驚いて息を潜めながら壁に背中を預けた。 話を聞いていると暁さんは一瞬黙った。答えを考えているのだろうか。 まぁ。でも当たり前だろう。社内では人気の佐藤さんに告白を受けているのだから。 俺は暁さんの答えをそっと待った。 「ごめん。でも、ありがとう。」 俺はその答えに驚いて目を見開いた。 意外だった。暁さんの事だから時間を貰ってしっかり考えてから返事をするんだと思っていた。案外、本命以外どうでもいい人なんだろうか? そんな事を頭に浮かばせ、気配を消して部屋に戻った。 戻る途中、暁さんの答えにどうしてか少し寂しさを覚えた。佐藤さんに同情したわけではない。だけど、何処か寂しさを覚える答えが、胸に引っかかった。 部屋に戻り布団へ入り何故かソワソワしている気持ちを抑えて息を吐いた。 すると襖が空いた音が聞こえ、ため息が聞こえたかと思えばこっちへ近付く足音に俺は何故か寝たふりをした。 すると襖が締まりお互い部屋にひとりとなった。俺は何故か子供のような言動を思い出し1人で聞かない方が良かったと後悔した。 佐藤さんは暁さんのどこを見て好きになって、彼の何を知っているのか。 でも、俺は佐藤さんよりも暁さんの事を知っている。缶コーヒーはブラックよりも甘い方が好きな事。だけど、ドリップしたコーヒーはブラックが好きな少し変人な事も。 どうして自分がこんなに複雑な思いをしているのだろう。何処がいつもと違う自分に驚きつつその日の俺はなかなか寝付けず結果寝不足気味で起きることになった。

ともだちにシェアしよう!