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第9話
早朝、ぐっすりと眠れた俺は大きく伸びをした。窓の外を見れば朝露が下りてきて肌寒い様子だった。
それでも俺は洗面所へ行き顔をパシャパシャと洗う。
鏡の前の自分の顔を見て心做しか元気の無い顔をしていることに気付き口角を無理矢理あげた。
昨日の告白とそれに対しての自分のセクシャルに少しメンタルを削られた。こんな事には慣れている筈なのに昨日は何故か少し落ち込んだ。
昨日の事もあるし、|東京《あっち》に帰ったらmomoに行こう。そして皐月や裕太と話そう。お互いに旅行に行った土産話でもしたい。それに、皐月と裕太の土産を受け取らなくちゃな。買ってくれてるのかは知らないけど。
顔を洗ってスッキリとした俺は昨日済ますことが出来なかった荷物整理をした。momoのマスターのお土産と皐月と裕太のと…よし。
買った土産が全部あるのを確認して俺は浴衣から私服に着替えた。寂しくもこの浴衣生活とはおさらばだ。浴衣って結構いいな。プレイで使えそう。
そんな邪な考えを頭の片隅に追い込み着る服の厳選をした。
取り敢えず、白いシャツにニットの紺のベストを着て下はこげ茶色のスキニーを合わせた。丁度着終わった所で、背後の襖がそっと開いた。小林が起きてきた。朝から眠そうなイケメンは目の保養である。それに寝癖がついている小林は少しレアだな。俺は起きてきた小林に挨拶をして、旅館の売店へ行き朝ご飯を買ってくることにした。
「おはよ。小林くん。おれ売店行ってくるね~。」
「……おはうございます。分かりました。」
◇◆◇◆◇
廊下を歩いていると佐々木とすれ違った。
「お!暁。おはよーさん。」
「おはよう。今から飯?」
ビニール袋を提げて、パタパタと前方から歩いてきた佐々木に問いかける。
「そ、今買ってきた。」
「朝から唐揚げかよ。」
「そう。腹が減ってるんで。」
「あっそ。じゃ俺も行ってくる。」
踵を返して俺は階段を降りる。この先の廊下を曲がれば売店がある。売店と言ってもコンビニのような品揃えな為、結構充実していると思う。
俺は売店に入ると小さなカゴを持った。店内にはお年寄りの女性と俺と、店員さんだけの静かな様子だ。
俺は飲料水コーナーのホットのとこへ行き、温かい緑茶2本をカゴに入れた。そして、隣の商品棚のサンドウィッチ2つをカゴにいれた。
そして、ガムも数種類買う。
レジに持っていき、財布を忘れたことに気付き仕方なくスマホで支払う。
やっぱり、浴衣だとラフな格好過ぎて色々と忘れてしまう。
ふと時間を見るとあと2時間でバスの出発の時間となっていた。俺は大股で部屋に帰った。
部屋に帰ると小林も着替えており、いつでも出発出来る体制になっていた。
俺は今買ってきた袋から緑茶とサンドウィッチを出して小林に投げた。それを受け取った小林が驚いて「俺の分の料金払いますよ。」と言ってきた。
「いいよ。そんくらい先輩にもカッコつけさせて。」
俺は遠回しにいらないと伝えた。すると、小林は「ありがとうございます。」と言って緑茶を、1口飲んだ。そんな姿さえイケメンはカッコいいなんて、ほんと顔徳してるよなぁ。
◆◇◆◇◆
それからバスの出発時間の数分前に皆ロビーで待機していた。
俺も小林と待っているとたなゆいさんが、1人で待っていたので俺達も一緒に待つことにした。ここ数日は佐藤さんと一緒に行動していた所をよく見かけていた為、一人で居るたなゆいさんは久しぶりだ。
それからやっとバスが到着して乗り込むと隣には丁度、鈴木がいた。そして、通路を挟んで右側には小林が座った。小林の隣には佐藤さんが座っていた。
佐藤さんは気まずそうにこっちを見て軽く会釈をすると、小林と話をし始めてしまった。
なんだか少し、小林を取られた感があるのはこの数日小林と居すぎたせいだろうか。
バスが出発して鈴木がバス内を盛り上げ始める。
相も変らずムードメーカーは大変だなと勝手に同情していたら、佐藤さんと話していた小林が思い出したかの様に、こっちを向いて缶コーヒーを渡してきた。
「さすがにこれくらい受け取ってくれますよね。」
朝のお返しとばかりに強引に押し付けられた缶コーヒーは、温かくて甘い俺の好きなコーヒーだった。
俺は少し嬉しくてニヤけそうになるのを堪えていつも通りお礼を言った。
「さすが。イケメンは当たり前のようにかっこいい事するね。ありがとう。貰っておく~。」
「どういたしまして。……カイロ代わりにしないで下さいね。」
そう言われ、驚いて小林の方を見れば目を閉じて寝る準備をしていた。
……バレてたのかな。行く前に貰った佐藤さんの缶コーヒーをカイロ代わりにして、まだ飲んでないの。ちょっと悪い事したかも。俺。
少し反省しながら俺は小林から貰ったコーヒーの封を切った。
口に入れたコーヒーはいつもよりも甘く感じた。
佐藤さんに貰ったコーヒーは自然と飲もうとはしなかったけど、どうでしか小林に貰ったコーヒーはすぐに飲みたくなった。そんな罰当たりな俺はこの感情が怖くなった。
あぁ…やめて欲しい。この感情は辛くなるやつだ。
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