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自信喪失中 3
「あのさ……まじで助かったよ、七嶋さん。俺ホント、もうダメだと思ったからさ。……あ、ありがと」
七嶋がさっと手を出して那津を立たせてくれた。触れたその腕は、意外にも筋肉が付いていて、がっしりしている。
いかにも、「勉強しかしてきませんでした」というタイプに見えるのだが、スポーツも得意だったりするのだろうか。
「とにかく、無事でなによりです。それに、そんな他人行儀な呼び方はよしてください。僕のことは小次郎と呼んでください」
邪気のない笑顔を向けられ、こっそり逃げたことに罪の意識を感じてしまう。
「ああ、じゃあ……小次郎、さん」
「さん、は不要です」
「小次郎……?」
「はい!」
なんだ、これ。と思いつつも、助けてくれたほんのお礼だと思えば、下の名前で呼ぶくらいどうということはない。
小次郎は一転、口元の笑みを消すと那津に言った。
「警察に、被害届を出しますか?」
「ぅえっ? け、警察?」
小次郎はいたって真面目な様子で続ける。
「怪我をさせられてはいませんが、これは立派な暴行罪です」
「暴行……」
反射で躰がぶるっと震えた。思わず小次郎の腕を強く掴んでしまう。
「あの男が、最初からあなたに暴行を加えようと考えていたなら傷害罪です。けれど、さっきの様子からして、ついカッとなって手を出してしまったように見えたし、あなたは怪我をせずに済んだので、過失傷害罪でもないでしょう」
「え? かしつ……なんだって?」
滅多に見ないニュースとかで、聞いたことがあるような気がするだけの単語の連発に、頭がついていかない。
「ええと、ごめん。全然わかんないよ」
真剣な表情で話していた小次郎は、はっと我に返ったように目をぱちくりさせた。
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