7 / 132
自信喪失中 4
「......すみません、少し興奮してしまいました。あなたに暴力をふるった、あの男が許せなくて......」
「なんで......? 俺、あんたとは今日初めて会ったのに」
那津は思わず、ふーっと息を吐いた。
けれど、まだ躰は張りつめていて、ガチガチになっているのが自分でもわかる。
「震えていますね。......怖かったですよね、すごく」
「う、ん」
那津の手は、まだ小次郎の腕を離せないでいる。
小次郎は、おもむろに自分のショルダーバッグから財布を取り出した。
中からカードを一枚すっと抜き出すと、那津に言った。
「あなたの携帯で、僕の顔を撮ってください」
「えっ?」
那津は言われるまま、制服の後ろポケットのスマホを、まだ震える手で苦労して取り出す。
小次郎は、那津のスマホを受け取ると、自撮りの要領で、自分の顔を撮影した。
そして、スマホと一緒にカードも添えて、那津の手に戻す。
「今撮った、僕の顔写真を確認してみてください」
言われた通りアルバムを開くと、カメラロール内にぐるぐる眼鏡の男の顔が、はっきり映っていた。
「......で、このカードは?」
「僕の学校の学生証です」
見ると、カードには住所、氏名、電話番号、学校名に、長ったらしい学部名、他にもなにやら長い数字が記載されていた。
「ぼくは、あなたをご自宅まで無事に送り届けたいんです。さっきの男が、まだその辺をうろついているかもしれないですからね。でも、今日初めて会ったばかりの僕をご自宅まで誘導するのは、とても不安ですよね? だから、この学生証をあなたに預けます。もし、少しでも僕が不審な行動をとったら、そのカードと顔写真を使って、学校に苦情の電話でもなんでもしてください」
「え、でも......」
そりゃ、確かに不安だけど、実際、小次郎は那津を助けてくれたわけだし、恩人のようなものだ。
ファミレスで会ったときは、正直チョーうざかった。
けれど不思議なことに、今の時点では、ビン底眼鏡を見ていると和むというか、安心感に包まれる気さえする。
「で、でもさ、こんな大事なもの、俺に渡しちゃったら、あんた困るんじゃないの? 学校で必要だろ」
「ほんの数日なら、問題ないですよ。毎回、これを提示して通学するわけじゃありませんから」
――そう言われてもなあ。
ともだちにシェアしよう!