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自信喪失中 4

「......すみません、少し興奮してしまいました。あなたに暴力をふるった、あの男が許せなくて......」 「なんで......? 俺、あんたとは今日初めて会ったのに」 那津は思わず、ふーっと息を吐いた。 けれど、まだ躰は張りつめていて、ガチガチになっているのが自分でもわかる。 「震えていますね。......怖かったですよね、すごく」 「う、ん」 那津の手は、まだ小次郎の腕を離せないでいる。 小次郎は、おもむろに自分のショルダーバッグから財布を取り出した。 中からカードを一枚すっと抜き出すと、那津に言った。 「あなたの携帯で、僕の顔を撮ってください」 「えっ?」 那津は言われるまま、制服の後ろポケットのスマホを、まだ震える手で苦労して取り出す。 小次郎は、那津のスマホを受け取ると、自撮りの要領で、自分の顔を撮影した。 そして、スマホと一緒にカードも添えて、那津の手に戻す。 「今撮った、僕の顔写真を確認してみてください」 言われた通りアルバムを開くと、カメラロール内にぐるぐる眼鏡の男の顔が、はっきり映っていた。 「......で、このカードは?」 「僕の学校の学生証です」 見ると、カードには住所、氏名、電話番号、学校名に、長ったらしい学部名、他にもなにやら長い数字が記載されていた。 「ぼくは、あなたをご自宅まで無事に送り届けたいんです。さっきの男が、まだその辺をうろついているかもしれないですからね。でも、今日初めて会ったばかりの僕をご自宅まで誘導するのは、とても不安ですよね? だから、この学生証をあなたに預けます。もし、少しでも僕が不審な行動をとったら、そのカードと顔写真を使って、学校に苦情の電話でもなんでもしてください」 「え、でも......」 そりゃ、確かに不安だけど、実際、小次郎は那津を助けてくれたわけだし、恩人のようなものだ。 ファミレスで会ったときは、正直チョーうざかった。 けれど不思議なことに、今の時点では、ビン底眼鏡を見ていると和むというか、安心感に包まれる気さえする。 「で、でもさ、こんな大事なもの、俺に渡しちゃったら、あんた困るんじゃないの? 学校で必要だろ」 「ほんの数日なら、問題ないですよ。毎回、これを提示して通学するわけじゃありませんから」 ――そう言われてもなあ。

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