8 / 132

自信喪失中 5

那津は少し考えてから、スマホで小次郎の学生証を撮影した。 ちゃんと撮れてるかアルバムを確認してから、学生証を小次郎に返す。 「ほら。これはあんたが持ってろよ。こんな大事なもの、簡単に他人に渡しちゃダメだ」 「え、でも……」 「写真はしっかりここに保存されてるから、大丈夫だろ」 那津は心配顔の小次郎に向かって、スマホを掲げてみせる。 小次郎は那津の行動に驚いたようだった。学生証を受け取ったが、すぐにはしまわず、那津の顔と交互に見ている。 ――変なやつだな、ほんと。 恰好は妙ちくりんだし、初対面の那津に変な頼みごとをする強引で迷惑なヤツだけど、中身は嫌なヤツじゃないのかもしれない。 「あの……送らせてくださるんですか」 小次郎が遠慮がちに言った。 「なんだよ、ファミレスではあんなにグイグイ来たのに、弱腰なんだな」 小次郎の、ビン底眼鏡奥の目が、ずっと心配そうに那津を見つめているから、ほだされつつあるのかもしれない。 「まあ、あんたはまれに見る妙ちくりんなヤツだけど、悪いヤツには思えないよ。だから、送らせてやるよ」 「本当ですか!」 偉そうに言ってしまってから、自分の高飛車なセリフに引いた。 「あ、いや、そうじゃないよな。あの……俺も一人で帰るのは怖いんで、送ってください。お願いします、七嶋さん」 那津が、小次郎に一礼して顔を上げると、その顔は満面の笑みだった。 そして、小次郎は那津にずいっと一歩近づくと、両肩にそっと手を乗せた。 分厚いガラスの奥をじっとのぞいてみれば、小さな目と視線が合う。 そして、全体的にダサいのに、やたら歯並びがよくて白いのが、ますますコントっぽい。 「はい! 仰せのままに致します! ......そんな、他人行儀な呼び方はよしてください。僕のことは、今後、小次郎とお呼びください」 「へ? ああ、うん」 「僕は剣道の有段者ですから、ボディガード代わりになりますよ。そばに置いても、邪魔にはなりません。きっと、あなたのお役にたちます」 にこにこしている小次郎の顔を、那津は思わず眉をひそめて見上げた。

ともだちにシェアしよう!