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ベタな男 7
小次郎はまだ赤みの残った顔で嬉しそうについてくる。
小次郎のダサいショルダーバッグをぐいぐい引っ張りながら、那津はちょっと面白くなってきたなと感じていた。
「那津さん、眼鏡返してくださいよー」
「ちっ」
しらばっくれて眼鏡を持ったまま歩いていたのだが、小次郎がメガネメガネと呪文のようにうるさいので、それを手元に投げてやる。
「あ、眼鏡……」
♢♢♢
最初に小次郎を連れて行ったのはカジュアルジーンズショップだった。
とにかく小次郎に必要なのはファッションの基本的なことだ。
恐らく、小学生男子より知識がないのだろう。
髪が真っ黒で色白で素顔が派手だから、シンプルなモノトーンが似合いそうだ。那津とは真逆のタイプといえる。
ミラーの前に立たせた小次郎に、何通りか選んだシャツやパンツを当てて自分の目で確認させる。
「うわあ、この色合いで僕が選んだら、ただ地味なだけになりそうなのに、こんなに素敵になるなんてすごいですね。絶妙な組み合わせです」
「お前はシンプルなのが似合うんじゃないか。失敗もないだろうし」
小次郎はいちいち感動している。今まで本当に勉強しかして来なかったのだろう。
那津も、別の意味で感心していた。
買い物の予算が、那津の予想よりひと桁多かったため、洋服は三着分、それぞれ別の組み合わせでも着られるようにチョイスした。
新しい服を着て試着室を出てきた小次郎は、まるで別人だった。
店員も、通りがかった買い物客も、立ち止まって見とれるほどだった。
ジャマな眼鏡は那津が取り上げていたし、姿勢もいいからヘアスタイルセット待ちのモデルのようだ。
髪も瞳も真っ黒で、ぬけるように肌が白いから、モノトーンのファッションがよく似合う。
さらに驚いたのは、パンツの丈を詰めなくてもそのままでサイズがぴったりなことだった。相当足が長いということか。
「すげえいいぞ、小次郎……」
やっぱり元の素材がいいからなのか、想像以上の完成度だった。
「那津さん、もう眼鏡返してくださいよ~」
「よし、次は靴だ」
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