23 / 132
ベタな男 13
「……お前、いつ見てもって、俺と会うのはまだ二度目だろ」
「あ、それは……」
「大変お待たせしました、どうぞこちらへ」
カットの順番が回ってきて、話は途切れた。
小次郎は緊張しているのか、カクカクした動きで誘導されている。
那津は笑いを堪え、インテリアの一部のように配置された洋書の写真集を手に取り、仕上がりを待つことにした。
♢
小次郎のヘアカットは大成功だった。
相当の量を切ったと思われた。恐らく小次郎が座っていた鏡の周囲は切り取られたボサ毛の残骸がモシャモシャ積まれていたことだろう。
しかし、そのボサ毛が嘘のようにふんわりまとまり、前髪もかなりカットしたようで、形の良い眉が整った鼻筋をよりスッと上品に、口元はより知的な感じになった。
本当に眼鏡だけがあきらかに邪魔で、完璧カッコいいモデルが冗談でかけているようにしか見えない。それが非常に残念でならなかった。
それは小次郎も同じだったらしく、二人は盛り上がったテンションのまま、軽やかな足取りでコンタクト専門店へ入った。
しかしコンタクトを作るには、あらかじめ眼科での検査が必須で、隣接の眼科は予約が埋まっていた。しかも検査時間としてレンズの選定、着脱の練習など入れると、数時間はかかるらしい。
「コンタクトって簡単に付けられるのかと思ってたけど、結構手間かかって大変なんだな。俺の友達なんかは、ファッション感覚でカラコン普通に付けてるからわからなかったよ。くそー、知ってれば予約してから買い物行ったのに」
「本当ですね。オシャレには手間がかかるってことなんですね。でも、どんな流れなのか大体理解できたので、僕明日にでも眼科へ行きます」
那津は残念で地団太を踏みたい気分だったが、小次郎も同じ気持ちなのだと伝わってくる。
なんだかそれだけで気持ちが浮上して、努力が報われた気になった。
ともだちにシェアしよう!