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ベタな男 14
それにしても、だ。――もはや目前の小次郎は、どの角度から見ても誰が見ても、楽勝でカッコいい男に変貌していた。
シンプルで洗練されたモノトーンのファッション。
清潔にカットされた黒髪は、元々整った顔立ちをよりいっそう際立たせているし(ビン底眼鏡は置いといて)172センチの那津より10センチほど背が高く足も長いから、黙っていればモデルと見間違う。
午前中に待ち合わせたベンチにこの恰好で現れていたなら、よい意味で注目の的だったはずだ。
せっかくここまで予想以上に変貌したのに、眼鏡だけが残念だが、しかたがない。
小次郎は不意にあらたまった態度で、那津に体を向けた。
「那津さん、今日は本当にありがとうございました。僕、初めてのことばかりで少し緊張してたんですけど、とても楽しかったです。那津さんが選んでくださったこの服もバッグも靴も全部気に入りました。他に買ったものも全部、僕の宝物です。那津さんのおかげで、大満足です」
もはや小次郎の笑顔には、アホっぽさの欠けらも見つけられない。
常に品性がくっついていて、こんな風に真っすぐ見られると、また首の後ろがムズムズしてしまいそうだ。
「……いやいや、いいってことよ。なんだかんだで、俺も楽しかったし」
小次郎は、なぜだかモジモジしている。
「……どうした? せっかくカッコいいんだから、そのモジモジはよせよ」
「あ、あの、那津さん。また、会ってくれますよね。……これで終わりじゃ、ないですよね」
眼鏡の奥は真剣な眼差しだった。
那津は、なんだそんなことかと思ったが、初対面で逃げ出したことを考えれば、小次郎が不安になるのも無理はない。
那津は思わず笑ってしまった。
「ハードが最新でも、ソフトが旧式じゃ上手く使いこなせないだろ。――安心しろよ。お前が見た目も中身もカッコいい男になるまで、俺が面倒見てやるから」
――俺は、中身が空っぽのソフト内臓の男みたいだけどな……
少々自嘲気味に、那津は胸の中で呟いた。
「ありがとうございます! う、嬉しいです!」
尻尾をブンブン振ってるワンコみたいに喜んでいる小次郎を見て、救われたような気持ちになった。
――こいつと一緒にいれば、失われた俺の自信も少しは取り戻せるのかな……
那津は、朝の時点では予想もできなかったことを考えていた。
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