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ギャップ王子 8

――タナカさん、ご苦労様です 家政婦のタナカを、胸の中でこっそり労(ねぎら)う。 緩くカーブした階段を上がりきった後、小次郎は廊下を真っ直ぐに進み、一番奥の、南側の部屋のドアを開けた。 「おおっ」 室内は広かった。那津の六畳間の二倍くらいに感じる。 「さすがに広いな~。なあ、どんくらいの広さ? 十二畳くらい?」 「十畳です」 「へえ、そっか。天井が高いから、広く感じるんだな」 家具は一通り揃っているようだが、主である小次郎が現在は生活していないせいなのか、がらんとして寒々しい雰囲気だ。 実にシンプルで、機能的な家具が並んでいる。 色味はナチュラルテイストで、カーテンや床の色に合っている。 ファッションセンスは最悪なのに、この部屋はなかなかのものだ。 「なんか、意外だな。小次郎ってインテリアのセンスはあるんじゃねえ?」 「えっ……そうですか? ――ありがとうございます」 那津が部屋を見たいと言い出してから、小次郎はやけに歯切れが悪い。 そういえば、いつもの「顔中笑顔」もない。 本当に、那津に部屋を見せたくなかったってことなんだろうか。 ――わがまま言ったつもりは、なかったんだけどな……

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