33 / 132

ギャップ王子 9

いつもの小次郎らしからぬ態度に、那津はなんだか心細くなる。 笑顔じゃない小次郎は別人のようによそよそしく感じて、静かに突き放されたような気になってくる。 無意識に猫のベルを強く抱きしめてしまい、ニャッと抗議の鳴き声が上がった。 「あっ、ごめん! ベルちゃん」 ベルはするりと那津の腕から抜け落ちる。とん、と軽やかに着地するとしっぽを伸ばし、優雅に廊下を歩いていく。 「……あのさ、ごめん。強引に部屋まで案内させて悪かったな。ほんとは見せたくなかったんだろ? ……あの、俺、猫たちにも会えたし、そろそろ帰るよ」 「えっ……」 那津が、過去にあらゆる女の子たちとの付き合いをこなしてこられたのは、能天気な性格の割に場の空気を読めるからだと、自分では思っている。 いくら初対面から強引だった小次郎相手でも、この変わりようは無視できなかった。 俺はそこまで無神経じゃないし、小次郎をなめてるわけでもない。 「那津さん、あの……僕は」 小次郎は何か言いたげな表情をするばかりだ。「帰る」と言ってしまったものの、小次郎も那津も帰る家は近所だ。「僕も一緒に帰ります」というセリフを待っていたけれど。 まだ迷っているような顔でただ那津を見つめるだけで、何も言ってくれない。 そのとき、階下から甲高い女性の声が聞こえた。 「小次郎~~! 帰ってるの?」 小次郎の目がわずかに反応した。

ともだちにシェアしよう!