34 / 132

ギャップ王子 10

女の声はかなり大きく、遠慮のない感じがした。合間にタナカさんの小さな声が、ボソボソと聞こえる。 「今日に限って、なんで……」 小次郎はため息をつき、額に手の平を当てた。よくわからないが、歓迎すべき相手ではないらしい。 「誰か来たみたいだな。お客さん? それならほんと、俺は帰るし」 「那津さん、待って!」 不意に腕を掴まれて驚くが、軽く小次郎を睨んでやる。 「お前、さっきからほんとに変だぞ。そんなに部屋を見られたくなかったなら、拒めばよかったじゃん。嫌だって言われれば俺だって……」 「すみません」 「いや、謝るなよ。責めてるわけじゃないんだから」 そうこうしているうちに、会話を遮る音と共にドアが開き、若い女がずかずか入ってきた。 「もう、小次郎ったら! 帰ってるなら連絡くらいしなさいよね。――あら、お客様だったの?」 「小夜香(さよか)……」 小夜香と呼ばれた女は、那津がその声の印象で感じた派手なイメージとは、かなり違っていた。 20歳くらいだろうか、肩にかかるダークブラウンの髪は品よくカールしているし、控えめなフリルのついた淡いグリーンのブラウスに、白いスカートが華奢なボディラインをより女らしく見せている。 小次郎の様には整っていないが、ややつりあがった大きな瞳は印象的で、美人の部類に入る顔立ちだし、那津のタイプ……ではあるのだが。 「何しに来たんだよ。お前、遊んでばかりのようだけど、大学はちゃんと行ってるのか」 小次郎は、小夜香に対してぶっきらぼうに言い捨てた。 ――――え?

ともだちにシェアしよう!