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ギャップ王子 10
女の声はかなり大きく、遠慮のない感じがした。合間にタナカさんの小さな声が、ボソボソと聞こえる。
「今日に限って、なんで……」
小次郎はため息をつき、額に手の平を当てた。よくわからないが、歓迎すべき相手ではないらしい。
「誰か来たみたいだな。お客さん? それならほんと、俺は帰るし」
「那津さん、待って!」
不意に腕を掴まれて驚くが、軽く小次郎を睨んでやる。
「お前、さっきからほんとに変だぞ。そんなに部屋を見られたくなかったなら、拒めばよかったじゃん。嫌だって言われれば俺だって……」
「すみません」
「いや、謝るなよ。責めてるわけじゃないんだから」
そうこうしているうちに、会話を遮る音と共にドアが開き、若い女がずかずか入ってきた。
「もう、小次郎ったら! 帰ってるなら連絡くらいしなさいよね。――あら、お客様だったの?」
「小夜香(さよか)……」
小夜香と呼ばれた女は、那津がその声の印象で感じた派手なイメージとは、かなり違っていた。
20歳くらいだろうか、肩にかかるダークブラウンの髪は品よくカールしているし、控えめなフリルのついた淡いグリーンのブラウスに、白いスカートが華奢なボディラインをより女らしく見せている。
小次郎の様には整っていないが、ややつりあがった大きな瞳は印象的で、美人の部類に入る顔立ちだし、那津のタイプ……ではあるのだが。
「何しに来たんだよ。お前、遊んでばかりのようだけど、大学はちゃんと行ってるのか」
小次郎は、小夜香に対してぶっきらぼうに言い捨てた。
――――え?
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