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ギャップ王子 11
那津に対しては、常に礼儀正しく敬語だ。そんな小次郎しか見てこなかったから、初めて目にする不機嫌な態度と、威圧的な言葉だった。
小夜香は歓迎できない相手なのか、迷惑そうな表情を隠しもしない。
「用がないなら、帰れ」
「ちょっ……おい、小次郎」
冷たく言い放った言葉に、那津は驚く。
小次郎に出逢った日から数えて三日だけど、その間見てきた態度や表情、声色までもが違いすぎる。
そのあまりのギャップに、度肝を抜かれた。
黙って立っていれば、クールな男前なのだ。那津は今、誰と一緒にいるのか混乱しそうだった。
大袈裟ではなく、まるで与えられた台本通りに別の人間を演じているような気さえしてくる。
頭の中は、クエスチョンマークで埋め尽くされた。
一方の小夜香は、まったく気にしていないようだが。
「今日は大事な講義がないんですー。なによ、あなたがマンションには来るなって言うから、こっちにときどき顔を出しているんじゃないの」
気を遣わないくだけた口調が、かえって二人の関係を親密に感じさせる。
那津はなぜかわからないが、この場にいるのが急にいたたまれなくなった。
「どうせ、ろくに授業出ないで誰かに代返してもらってるんだろ。授業料の無駄だから、中退したらどうだ」
「あー、うるさいわね! いつもいつも。あなたってママより小言が多いわよ。それに、代返なんか頼まないわよ。今は厳しいんだから」
「小言じゃなくて、正論だ」
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