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ギャップ王子 13
「那津さんは、素晴らしい人なんだ。僕にとって那津さんは……」
「こ、小次郎! 俺、急用思い出したから帰るよ!」
「えっ? あ、那津さん!」
背中で小次郎の声を聞きながら、那津は部屋を飛び出して階段を降りた。
玄関はどこだっけと迷っていると、トレーを上品に抱えたタナカさんに会う。
「おじゃましました。あの、失礼します」
「あら、青海さん。もうお帰りなんですか、残念だわ。今日みたいに楽しそうな小次郎さんを見たのはとても久しぶりなんですよ。またぜひ、いらしてくださいね」
「ありがとうございます。俺もすごく楽しかったです」
きちんと挨拶できたことにほっとする。小次郎の部屋をさりげなく見上げたが、出て来る気配がなかった。
さっきの調子で、小夜香と言い合っているのかもしれない。
那津に対する小次郎の過大評価には、慣れてきたつもりなのに、今顔を合わせるのはとてつもなく、恥ずかしい気がする。
これが男同士の熱い友情なのだとしても……。
それに、なんだかあの場にいるのが、ひどくいたたまれなかったのだ。こんなにも、自分の気持ちがわからないのは初めてだ。
誰にでも敬語を使う、超真面目なやつだと思っていたのに、小夜香に対する態度は、どこにでもいる若者という感じだった。
いったい、どっちの小次郎が本来の姿なんだろうか。
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