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友情と感情のはざま 1
「デートでお茶するなら、こんな感じの店がおすすめ。とりあえず慣れるまではスタバとかでもいいけど。あと……コーヒーはブラックで飲むこと」
小次郎は熱心に耳を傾け、いちいちメモっている。
今回は、那津のお気に入りのショップへ小次郎を連れて行きたくて、都心まで足をのばした。
そして途中、以前入ったことのあるカフェの前を通りかかり、立ち寄ってみたのだ。
「ブラックがカッコいいからですか?」
「そうだよ」
「那津さん、さっきカフェオレに角砂糖三つ入れてましたよね」
ブッと吹き出しそうになった。
「わ、悪かったな! あいにく俺は甘党なもんでね」
「なるほど……デートの時は、やせ我慢してカッコいいブラックにする……と」
小次郎は真剣にペンを走らせる。
「おまえ、俺をバカにしてんのか」
「いいえ。那津さんは、極甘のカフェオレを飲んでいても、カッコいいですから!」
大真面目に答える小次郎に、「あたりまえだろ!」と、やや動揺しつつ言ってやる。
那津は、小次郎に会うたび、モテるための秘訣を惜しむことなく伝授している。
女の子の行きたい場所、好きな食べ物を会話の中でさりげなく聞き出す技や、女の子のタイプ別に会話のキャッチボールの投げ方を変える、など。
小次郎はとにかく熱心だし、いちいち感心してくれるから、正直やりがいを感じていた。国立の大学生に、自分でも教えられることがあるんだと、救われた部分が大きい。
カフェの入り口には、まるでパリの街にある店顔負けの(実際行ったことないけど)洒落たテーブル席と観葉樹が、絶妙のバランスで配置されていて、それは一枚の風景画を切り取ったような風情だった。
小次郎もそれを見て嬉しそうにそわそわしているし、外の方が気持ちよさそうなので、店員に言ってテラス席に案内してもらった。
那津の正面に座る、小次郎の今日の装いは、ブルーのストライプのシャツにベージュのパンツ、足元はベージュのハイカットブーツだ。
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