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友情と感情のはざま 5
「こんなこと聞いてごめんなさい。僕、那津さんに彼女がいなくて、嬉しいんです。……あ、失礼な言い方ですよね。でも、だからこそ、僕が那津さんを独占しているようで、嬉しいって思ってしまうんです」
那津は、とっさに言葉が出てこなかった。鯉のように口をパクパクさせるのが精一杯だった。
小次郎は満足したのか、頬を赤く染め恥じらうように微笑みモジモジしている。「独占」とか、それが嬉しいとか。――ものすごく恥ずかしいことを言われたのに、うまくツッコミ返すことができない。
那津は、赤くなった顔を見られまいと、先にすたすた歩き出した。
「小次郎が変なヤツだってのには、慣れてきたつもりだったんだけどなあ……」
言い訳のようにぶつぶつ呟く。「あ、待ってくださいよー」という小次郎の情けない声を聴きながら、那津は一軒の飲食店の前で足を止めた。『インドネシア料理』という看板を見上げる。
「おっ、この店、ネットの記事で見たことある! 店内が広くて、合コンに最適なんだって」
ややうんざりした調子で、小次郎が言う。
「また合コンですか? 離れましょうよ~、合コンから」
那津の中で、すでに合コンはどうでもよくなっていたのだが、さっきの小次郎の告白が、なんだかくすぐったくて照れくさくて、じっとしていられなかったのだ。
それに、単に店内への興味もあった。小次郎との他愛ないやり取りは楽しいし、もっといろんな場面で、小次郎と一緒に時間を共有したいと思ったのだ。
「な? とりあえず合コンは置いといて、入ってみようぜ。中の雰囲気見てみたい」
那津がお願いするように上目遣いで見ると、小次郎は一瞬かたまり、あごを引いた。そして、もごもごと口を動かす。
「しょうがないですねえ……わかりました。入りましょう」
なぜか、再びうっすら頬を染めた小次郎の腕を引っ張り、店内へ入った。
「いらっしゃいませ、お二人様ですか」
店名のロゴ入りTシャツに、ギャルソンエプロン着用の店員が、声をかけてくる。
「すいません、合コンの下見なんですが、店内見させてもらってもいいですか」
この手の客に慣れているのか、店員は笑顔でコース料理のメニューを手渡してきた。
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