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友情と感情のはざま 8

矛先が変わり、那津は小次郎の腕をつかむ。初めて触れたわけでもないのに、小次郎の一部から硬い筋肉を感じて、思わずうろたえる。 思わず手を引っ込めると、「僕は」と言う小次郎に、逆に手首をつかまれた。 「僕は、改成高校を卒業し、現在は二ツ橋大学法学部に、在学中です」 改成高校といえば、いわゆる『御三家』と称される、超難関高校の一つだ。当然、絢華の合コン相手の陸城高校よりも偏差値は高い。 それに、二ツ橋大学の法学部は、天下のT大学と同じくらい、狭き門らしい。(すべて小次郎と知り会ってから得た情報だが) 絢華は、ただ圧倒されたという表情で、もう言葉を発する気力がなくなったのか、ふらつきながら奥の部屋へと戻っていった。 その後すぐに、那津と小次郎は店を後にした。 駅までの道すがら、小次郎は前を見据えて押し黙ったまま、無言で歩く。 那津は、ちらちらと隣の小次郎の表情をうかがいながら歩くが、小次郎は大股で、ただ黙々と歩を進める。 小次郎と二人で、会話もなく歩くなんて初めてのことだから、那津はどうしていいのかわからなかった。 ついさっきも、絢華に言われた事とは別のことでうろたえたような気もするが、すぐに思い出せなかった。 電車に揺られ、互いの最寄り駅に到着しても、二人の間に会話はなかった。いつものような笑顔もなく、冷たいほど無表情の小次郎の顔からは、何も読み取れない。 小次郎は優しい男だ。だから、絢華に言われたことで、那津が酷く傷ついていると思っているのかもしれない。あるいは……。 元カノにあんなことを言われて、言い返せない那津に、呆れているのかもしれない。 「小次郎……なんか言えよ。なあ、俺に言いたいこと、ないのかよ」 このまま、何も話さずに別れるのは嫌だった。 那津は立ち止まり、小次郎の言葉を待った。 「おいってば、小次郎!」

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