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友情の意味 5

小次郎は目を細め、那津を見つめた。 ――あ、まただ。 こんな風に小次郎にじっと見つめられると、胸がざわつくというか、そわそわする。 そして、小次郎と過ごして楽しくて、また会いたいと思うたびに、時間がない、足りないと思う。 急いで小次郎の、いろんなことを教えてもらわなければと、見えない何かに急かされている気さえする。 「僕、そろそろ帰ります。那津さんは明日学校ですよね。お家でゆっくり休んでください」 別れがたい。まだ、一緒にいたい。もう少し……。 バッグをつかむ手が、なかなか離せない。 「お前だって、学校だろ」 自然と、甘えた口調になってしまった。 「僕は、講義が午後からなので、早起きしなくてもいいんです」 ふっと微笑んだ小次郎の顔が、やけに大人びて見えて、目が離せなくなる。 「ちぇっ、いいよな、大学生は」 なんだか自分が、拗ねた子供のような気になってくる。 「また、那津さんに会える日を楽しみにしています。僕もいつものようにうるさいほどメールしちゃうと思いますけど、那津さんも、いつでもいいので連絡してくださいね」 いい加減諦めて、那津はつかんでいたバッグから手を離した。 小次郎は、那津の手が離れたのを確認すると、街灯が灯る路地へ歩き出す。 「おやすみなさい。……もう中へ入ってくださいよ」 「わかってるっつーの。……おやすみ」 語尾は小さくなった。 季節は夏に突入して、夜は寒くないはずなに、温かいものが離れたみたいに感じる。 ――小次郎のせいだ。 那津は、自分の部屋に入ってからも、窓から小次郎が消えた路地をしばらく見つめていた。

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