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障害? 1
「それでねー、そのシフォンケーキったら超しっとりしててふわふわで、超美味しいんだって~」
「きゃー、それやばくなーい? 早く食ーべーたーいー。なっちん、歩くの遅いよ! そんなタラタラ歩いてたらお店が混んできちゃうじゃないの。ほら、速く脚動かして」
那津を挟んで、両側からハナとイチカが「超」とか「ヤバい」を連発している。
以前はまったく気にならなかったのに、小次郎の正しい日本語に耳が慣れてしまったせいなのか、なんだかげんなりしてしまう。
イチカが、クラスメートの女子からもらったという店のチラシを見ながら言った。
「うーん、クルミとバナナ美味しそうだけど平凡かしら。でも、ダブルベリーも捨てがたいわ~。ねえねえ、なっちんは何にする?」
那津の右腕に引っ付いたイチカの問いに、那津は頭に浮かべていた男の顔を慌てて消す。
「あのね、なっちん。人気なのはオレンジチョコとキャラメルバニラと紅茶アーモンドなんだって」
左腕に引っ付いたハナが、独自のおっとりした口調で教えてくれる。
「んー、俺は見てから決めるよ」
「さすが、なっちん。やっぱり男子だねえ」
感心したように言うと、ハナはどこに隠してあったのか、さっとチラシをもう一枚取り出した。
並んで歩くと、ハナの頭の天辺は那津の肩にも届かない。
癒し系のマイペースな性格で、一見中学生くらいに見えてしまうが、可愛らしい外見だから男子の人気が高い。(本人の自覚は無し)
いつか白馬に乗った王子様が、自分を迎えに来てくれると本気で信じている。
一方、見た目は背の高い綺麗系のイケメンに見えるイチカは、やや毒舌だがさっぱりした明るい性格でおおらか。
しかし女子力は高く、女子に妙にモテる。
那津にとって気楽に付き合えるのがこの二人であり、何より一緒にいるのが楽ちんなのだ。
そのうち、小次郎も彼女たちのような存在になるんだろうなと、漠然と感じていたけれど、最近は小次郎といると、度々心臓が妙な動きをするから、楽ちんとは言えない。
その理由すらわからないから、ハナとイチカのゆるくてどうでもいい会話は、ある意味ありがたいと思った。
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