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障害? 5
「さすが社長の娘だね」
小夜香は前方へ視線を固定しつつ、にっこり微笑んだ。
否定しないところを見ると、本当に父親は社長なのだろう。
小次郎の実家も、見たまんま金持ちだから、父親が社長なのかもしれない。
他にも、数多くの金持ち特有の職業があるのだろうけど、那津の知識内では、金持ちイコール社長なのだ。
「あのさ、なんであんたがわざわざ俺の学校まで来たのかわかんないんだけど。つーか、なんで知ってんの? 俺、高校生だって言ってないよね。小次郎から聞いたの?」
小次郎が勝手に教えたとは思いたくなかったが。
「彼からは何も聞いてないわよ」
那津の気持ちを読んだかのように、小夜香は言った。思わずその横顔を見ると、視線だけ那津に向けた。
「那津くんのこと、少し調べたの」
「は?」
小夜香はハザードランプを点灯させ、路肩に車を寄せると、シャネルのバッグからA4サイズの黒いファイルを取り出した。
「青海那津、七月七日生まれ。白波高校三年、成績は中、帰宅部、アルバイトの経験なし。交友関係は広く浅い。友達は女子ばかり、彼女は必ず他校の人間で、短期間で替わり常に切れない。父親は公務員、母親は週に三日パート勤務。五つ上の姉は受付……」
「おい……やめろよ。なんだよそれ」
小夜香の目はファイルから離れない。
その目の動きで、「少し調べた」のではないことがわかった。
「きゃっ」
小夜香の手からファイルをひったくり、確認してみる。
そこには那津と両親、姉の個人情報がびっしり記載されていた。
父親が楽しみにしている、週末の晩酌の酒の銘柄や、姉の現在の恋人の職業や住所まで。
「ちょっと! 返しなさいよ!」
那津は黙って小夜香をにらみつけた。こんなに腹が立つのは久しぶりだった。
気の強そうな小夜香も、息を呑んで那津を見つめている。
狭い車内が、緊迫感でいっぱいになる。
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