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障害? 6
「なんなんだよ、あんた……。俺だけならともかく、家族のことまで探るなんて。探偵でも雇って調べたのかよ、金の使い方間違ってんだろ。……いったいなんのつもりだよ」
怒りや憤り、そして奇妙な行動の小夜香への違和感。
いろんな感情が一気に押し寄せてくる。
握った拳の爪先が手のひらに食い込むが、痛みを感じなかった。
「なあ、小夜香さん。あんたって本当に小次郎の従姉なの? あんなに優しくて、穏やかな性格のやつの親戚なの? ――なんか、信じられないよ」
狭い空間だし、二人の距離は近い。
那津の息遣いや声の調子で、怒りを抑え込んでいるのは小夜香にも伝わっているだろう。
今すぐ小次郎に電話をして、話して、安心したかった。
小次郎のことだから、那津に大げさに謝るだろうけど、でもきっと、那津が安心できるような言葉をくれるはずだ。
ほっとできるような、一言を。
小夜香は両手を胸に押し当て、沈黙している。那津の怒りが伝わって、怯えているのかもしれない。
いくら気が強くても、相手は華奢な女性だ。
けれどこのままここにいたら、後先考えす怒鳴ってしまいそうだ。
那津は、頭を冷やすために外へ出ようと、ドアへ手をかけた。
「小次郎は、私の許婚(いいなずけ)なんだもの」
「えっ」
その言葉に、那津の手は止まった。
「いいなずけ?」
「小次郎がまだ叔母のお腹にいるとき、私のパパが決めたのよ。男の子が生まれたら、私と結婚させるって。その時私は三歳だったけど覚えてる。小次郎が生まれて来てくれたとき、本当に嬉しかった」
その言い方は、まるで運命の相手の誕生を待ちわびていたように聞こえる。
「あいつが生まれる前から、結婚するのが決まってたってこと?」
「そうよ、名前も私と同じ漢字を一字使ってつけたの。小夜香の「小」に、次男だから「次郎」で小次郎。私が命名したようなものだわ」
小夜香の真っ直ぐな視線が、那津を捕らえた。
「なんか、小次郎が生まれる前からあいつが好きだったって、聞こえるんだけど……」
「今も変わらず好きよ」
「あんた、いくつだよ。二十年も……あいつが好きってこと?」
「そうよ、悪い?」
「いや別に、悪くないけど……」
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