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揺れる心 1
ひどい寝不足だ。
いつもならベッドに入って三秒で寝られる那津なのだが、昨夜は神経が高ぶって、一晩中もんもんと過ごすハメになった。
原因は……明らかに小夜香だ。
おかげで今日一日、睡魔と格闘しながら授業を受けた。
何をするにもぼんやりしてしまい、クラスメートに話しかけられても、生返事しか返せなかった。
♢
ホームルーム終了のベルにも気付かず、那津のクラスまで迎えに来たイチカとハナに、両腕を取られ引きずられるようにして校庭へ出た。
空はすでに、茜色に染まり始めていた。
その綺麗なオレンジ色を見上げると、瞼にやけにしみて、なんだか泣きたいような気持ちになってくる。
小次郎とは、昨晩もメールのやり取りをした。内容は、小次郎らしいほっこりしたものだった。
いつもなら、簡潔な文面ですぐに返信するのだが、なぜだか指が動いてくれなくて、結局三時間後に送信した。
小夜香のことには触れなかった。
話せば、小次郎が傷つくような気がした。
きっと平謝りだろうし、那津の家族にまで迷惑かけたと知ったら、もしかしたら小次郎は、自分から身を引いて那津に会うことをやめてしまうかもしれない。
優しい男だから。
そんなのは嫌だった。小次郎に会えなくなるのは嫌だ。
確かに、偏差値の低い高校に通う那津は小次郎の友人には相応しくないのかもしれない。
でも、小次郎は学力や家庭環境なんか関係なく、那津を尊敬してると言ってくれた。
だから大丈夫だ、心配なんかしなくていいと思っているはずなのに、なのに……気分がどこまでも落ちていきそうな感覚に囚われている。
自分でもわけがわからない。
もやもやしてしかたがない。
イチカとハナは、グレーな気分の那津にお構いなしで、相変わらずどこのスイーツが美味しいだのなんだのと、ピーチクパーチクしゃべっている。
「ねえねえ、なっちん! 明日暇なら、学祭行ってみない?」
イチカが、B5サイズのチラシをひらひらさせる。そこには、『聖珪大学祭へウエルカム!』とでかでかと書いてあった。
「この大学って……。よく学園ドラマのロケやってるとこじゃん」
那津の自宅から結構近い。電車で三十分ほどの場所だ。
「そ。あたし明日は野暮用あるから、ハナに付き合ってあげてくれない?」
ハナが、キラキラした目で那津を見上げていた。
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