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揺れる心 2

「ハナ、この学祭行きたいの?」 「行きたい!」 インドア派で人混みの苦手なハナが、行きたいなんて珍しい。 「あのねえ、ハナ。高校じゃなくて大学なんだぞ。キャンパスはだだっ広いし、人がうじゃうじゃいて疲れるかもしれないよ。それでも大丈夫?」 ハナは、大きな目をパチパチさせて少し考えているようだったが、 「なっちんとくっついてれば、多分……大丈夫だと思う」 「えー、ほんとに?」 イチカが横から口を挟む。 「ほら、昨年ヒットした学園ドラマでもロケに使われてたでしょ。だから歩いてみたいんだって」 「へえ。歩きたいなら、むしろ他の日がいいんじゃない?」 「それじゃあダメよ。学園祭のシーンがすごく盛り上がって評判よかったから、それを見たいらしいわ」 ……そういうことか。 ハナは、穢れのない大きな瞳をキラキラさせて那津をじっと見つめている。 「なっちん……だめ?」 「う……」 正直、那津はあまり気が乗らなかった。 けれど、滅多に人に頼みごとをしないハナのお願いだ。だからこそ、聞いてあげたくなるのが人情というものだろう。 ――結局、今週はあいつからの誘いがなかったし。……待ってたのに。 いやいや、別に待ってないけど、毎週土曜か日曜欠かさず会っていれば、今週も当然会うものだと思うだろう。普通は。 しかし、小次郎からは約束の電話もメールもこなかった。そのことに那津は我知らず短いため息をこぼして、口を開く。 「そうだな……行ってみようか、ハナ」 「わあ、ありがとう、なっちん! すっごく楽しみ!」 嬉しそうなニコニコ顔のハナを見ていたら、沈んだ気分を紛らわすにはちょうどいいのかもしれないと思った。 いや別に、週末小次郎に会えないから沈んでるわけじゃない。 小夜香から、妙な打ち明け話を聞いてしまったせいだ。 ――はあ……。 那津は、二人から隠れるようにして、こっそり二度目のため息をこぼした。  

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