64 / 132
揺れる心 3
「それにしても、あいつ……なんで今週会う約束しなかったんだよ」
先日やり取りしたメールは、その事には触れていなかった。
予定が入っているならしかたがないけど、一言報告してくれてもいいのではないか。
毎週必ず会っていたのだから、こっちは当然会うものと思って空けていたのに。
この関係は、小次郎からのアプローチで強引に始まったから、誘うのは常に小次郎からだったし、那津は待っているだけだった。
――でも、俺はちゃんと言ったよな。あいつといるのは楽しいって。いや……はっきりとは言えなかったけど。
「別にいいか……。たまたま続けて会ってたけど、会わない週があってもいいよな。付き合ってるわけじゃないんだし……」
自分の独り言に、えっ、と思う。
これじゃまるで、彼氏の連絡を待ってる彼女の心境ではないか。
小夜香の、小次郎への想いが強烈だったから、感化されたとでもいうのか。
「ば……ばっかじゃねーの! んなわけあるか……バカだろ、俺……」
そもそも、こんなに悩んだりすること自体苦手なのだ。
ただ、一つだけわかっているのは、小次郎の存在が、那津の中でどんどん大きくなっているという事実だけだった。
♢
聖珪大学の最寄り駅で、ハナと待ち合わせた。
人混みが苦手なハナのため、那津は少し早めの時間目指して出かけた。約束の時間ぴったりに、人目を惹くほど可愛いらしい女の子が改札を出てくる。
「なっちん、お待たせー」
「全然待ってないよ。ハナ、すっごく可愛い」
ハナの好むファッションはナチュラルな山ガールテイスト。
小さな顔を囲むようにふんわり内巻きにカールされたヘアスタイルは、いつもより気合いが入っていて、ハナが今日を楽しみにしていたのがうかがい知れる。
那津の今日の役目はハナのエスコートだから、その隣に並んでもちぐはぐにならないよう、気を付けたつもりだった。
いつも両耳二つずつ着けているピアスは目立たない小さなタイプにしたし、ベージュのチェックのシャツに、カーキのクロップドパンツ、靴はごつすぎないミリタリーブーツにした。
「なっちんも、すごく可愛いよ」
「可愛い、じゃなくてかっこいい、だろ」
えへへ、と照れ笑いするハナに腕を差し出す。
ともだちにシェアしよう!