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揺れる心 8
硬くて熱い小次郎の体と、小夜香に対するぶっきらぼうな言い方に、那津の心臓がドキドキし始める。
自分のそんな反応に首を傾げたくなるが、以前にもこんなことがあった気がして、那津は小次郎から体を少し離し、記憶を探ってみた。
それがいつだったのか思い出せないが、確実にこの感じは経験済みだと思う。
小夜香がいなくなると、あの、と小次郎が遠慮がちに言った。
那津とハナの顔を交互に見ている。
なんだか、また表情が硬い。
「どうした?」
「僕も、ご一緒してよろしいでしょうか。……その、お二人のお邪魔でなければ、ですが」
小次郎がちらりとハナを見る。
那津はハナと顔を見合わせ、「違う違う!」と否定した。
「誤解するなよ! 俺とハナは付き合ってないから! 俺たちは親友なの! 本当はもう一人、イチカもいるんだけど、今日は来られなくてさ。だから、二人で来たんだ」
ね、とハナも大きく頷く。
それを見た小次郎が軽く息を吐き、ほっとしたような表情になった。
「すみません。那津さんから彼女はいないって聞いてましたが、もしかしたらと思ってしまったんです。お二人があまりにもお似合いなので」
「なに言ってんだよ。だいたい、俺はハナのタイプじゃないし。な? ハナ」
「うん! なっちんは可愛くてかっこいいけど、友達だよ」
小次郎はさらに安堵の表情を浮かべた。
那津は、先日小次郎に言われた「那津さんを独占出来て嬉しい」というセリフを思い出していた。
♢
「ここ、小夜香さんの大学なのか!」
「そうなんですよ」
那津とハナのために、小次郎が案内してくれたのは、キャンパスの中央に位置する巨大なカフェテリアだった。
「イチカが学祭のチラシをくれて、ハナが珍しく行きたいって言うからさ」
オレンジフロートをストローでかき混ぜながら、ハナも頷く。
「そうでしたか」
「このところ、土日はお前と会ってただろ。でも、今週は誘われなかったし……」
つい、語尾が寂しそうな響きになってしまい、「や、別にそれはいいんだけどさ」と慌てて誤魔化した。
――ちょっと! なに! 今の言い方! すごく誘ってほしかったみたいじゃん!
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