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揺れる心 9

那津の心の声など知る由もない小次郎は、「あっ」と小さく言った。 「毎年、小夜香の大学祭には付き合わされるんです。母や伯父からも言われているので、ほぼ恒例になってまして」 ああ、小次郎の母親と伯父さんは兄妹なわけか。 那津は胸の内でひっそり呟く。 「まあ、それも今年が最後ですけどね」 小夜香が小次郎より三つ年上なら、四年生ということになる。 小夜香の望み通り二人の婚約が整えば、小次郎は大学卒業後、小夜香と結婚して社長だという伯父の後を継ぐのだろうか。 漠然とそんな未来図を想像してしまい、不安で複雑な感情が顔を出した。 小次郎は時折、人見知りのハナに優しく声をかけている。 ハナも、物腰のやわらかい小次郎の雰囲気に、早くも打ち解けている様子だ。 学祭いうこともあり、テーブル席は満席状態だ。 三人でこの席についてからずっと、小次郎を盗み見る女たちの熱い視線をあちこちから感じている。 さすがに、ハナと小次郎が並んでいてもカップルには見えないが、 ――でも、相手が小夜香だったらどうだろう。 文句なしの美男美女で(女の方は性格に難ありだが)まさに似合いのカップルだ。 ――小夜香に聞かされたこと、こいつの口からちゃんと聞きたい。 二人が許婚だと小夜香に打ち明けられてから、那津はずっと落ち着かない思いを抱えている。自分でも訳がわからない。 だから、小次郎に説明してほしかった。 「なっちん、飲まないの? 味が薄くなっちゃうよ」 「あっ、いけね」 アイスの氷がかなり溶けていた。 忘れていたひりつくような喉の渇きを思い出し、ガムシロップを二個入れてかき混ぜる。 ストローで一気に飲みほすと、生きた心地が戻ってくる。 ふう、と安堵の息を吐いて顔を上げると、小次郎がニコニコしていた。 どうやら、一部始終を見られていたらしい。 「……なにニヤニヤしてんだよ」 「やだなあ、ニコニコって言ってくださいよー。極甘のアイスラテを飲む那津さんが、可愛いらしいなあと思いまして」 「なっちんは、可愛いよね」 「ですよねー」 「なんだよ、ハナまで……」

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