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揺れる心 10
いつのまにやら、何気に意気投合している二人から、ほほえましい視線を向けられる。
顔が熱くなるのを自覚しながらも、那津はいつものペースで小次郎と軽く話せたのが嬉しかった。
この後、三人でどこを回ろうかと話している時だった。
大勢の人で満杯のカフェテリアに、賑やかな集団が現れた。
数人の男性が執事のような恰好をしているのだが、皆長身のイケメン揃いなので(もちろん小次郎にはかなわないが)迫力があり、一斉に注目を集めている。
その中心には、可愛らしいメイド服を着た女の子が……。
「ちょっと! 小次郎! いつまで油売ってるのよ、約束の時間とっくに過ぎてるわよ」
「小夜香」
一見清楚で従順そうに見える可愛いメイドは、小夜香だった。
「マジで……あれ小夜香さんかよ」
またイメージが変わっているから、黙っていれば気づかないレベルだ。
驚くことなく、すぐに気づいた小次郎はすごい。
いとこ同士で、本当の家族のように、生まれた時からの付き合いなのだから、当然かもしれないけれど。
それだけ二人の距離が近くて、分かり合っている者同士。
――なんだろう、この気持ち。なんか、ずるいっつーか……俺だって、もっと、小次郎と……。
もっと、なんだろう。
小夜香に負けないくらい、小次郎に近づきたいし、何でも知りたい。
「勝手なこと言うな。時間なんか決めてないだろ」
小次郎は低い声でクールに言い放ち、だるそうに立ち上がった。
小次郎の声は低いけれど、那津と話すときはおっとりして優しい雰囲気だから、クールとは程遠い。
だから、その声で素っ気ないことを言うと、ひどく冷たく聞こえる。
那津に向ける、大型犬のような笑顔とは真逆のクールな表情と態度、声色。
もしそれが、自分に向けられたとしたら……。
那津の背中が、ざわりと粟立つ。
――えっ、なんだよ、これ。
不快感ではなかった。
実際にそんな顔をされたら嫌かもしれないし、いつでも那津には笑顔を向けてほしい。けれど、冷たい表情も見てみたいと思っている自分がいる。
小次郎のいろんな表情を、見てみたい。
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