71 / 132

揺れる心 10

いつのまにやら、何気に意気投合している二人から、ほほえましい視線を向けられる。 顔が熱くなるのを自覚しながらも、那津はいつものペースで小次郎と軽く話せたのが嬉しかった。 この後、三人でどこを回ろうかと話している時だった。 大勢の人で満杯のカフェテリアに、賑やかな集団が現れた。 数人の男性が執事のような恰好をしているのだが、皆長身のイケメン揃いなので(もちろん小次郎にはかなわないが)迫力があり、一斉に注目を集めている。 その中心には、可愛らしいメイド服を着た女の子が……。 「ちょっと! 小次郎! いつまで油売ってるのよ、約束の時間とっくに過ぎてるわよ」 「小夜香」 一見清楚で従順そうに見える可愛いメイドは、小夜香だった。 「マジで……あれ小夜香さんかよ」 またイメージが変わっているから、黙っていれば気づかないレベルだ。 驚くことなく、すぐに気づいた小次郎はすごい。 いとこ同士で、本当の家族のように、生まれた時からの付き合いなのだから、当然かもしれないけれど。 それだけ二人の距離が近くて、分かり合っている者同士。 ――なんだろう、この気持ち。なんか、ずるいっつーか……俺だって、もっと、小次郎と……。 もっと、なんだろう。 小夜香に負けないくらい、小次郎に近づきたいし、何でも知りたい。 「勝手なこと言うな。時間なんか決めてないだろ」 小次郎は低い声でクールに言い放ち、だるそうに立ち上がった。 小次郎の声は低いけれど、那津と話すときはおっとりして優しい雰囲気だから、クールとは程遠い。 だから、その声で素っ気ないことを言うと、ひどく冷たく聞こえる。 那津に向ける、大型犬のような笑顔とは真逆のクールな表情と態度、声色。 もしそれが、自分に向けられたとしたら……。 那津の背中が、ざわりと粟立つ。 ――えっ、なんだよ、これ。 不快感ではなかった。 実際にそんな顔をされたら嫌かもしれないし、いつでも那津には笑顔を向けてほしい。けれど、冷たい表情も見てみたいと思っている自分がいる。 小次郎のいろんな表情を、見てみたい。

ともだちにシェアしよう!