76 / 132
すれ違う心 5
那津は、クールな小次郎を前にして、またうっかりときめいてしまいそうになった。
けれどさすがに、余計な事を考えている場合じゃなかった。
「私は知らないわ……本当よ。 だって、牛谷くんと個人的な付き合いなんかないもの」
「そこまでやるとは思わなかった。ーーお前を見損なったよ、小夜香」
冷たく言い捨てられ、小夜香は完全に顔色をなくしている。
「信じてよ……私は本当に」
小夜香に背を向け、小次郎は那津に向かい合う。
「この中なら大勢人がいるから安全です。那津さんは、ハナさんとここにいてください」
小夜香の様子が気になるが、那津は素直に頷いた。
「わかった。けど、お前は?」
「僕はあの男を捜して来ます」
「いや、捜すなんで無理だろ。キャンパスの外に出てるかもしんないじゃん」
「それでも、じっとしていられませんから。いいですか、とにかく那津さんは僕が戻るまでここから出ないでくださいね」
そう言うと、小次郎は足早に出口へ向かう。
「おい!」
外へ出た小次郎が、辺りを窺いながら走り去るのが見えた。
ーー俺のせいで、なんだか大変な事になっちゃったな……。
那津が茫然とそのまま突っ立っていると、誰かにシャツをくいっと引っ張られた。
「ーーハナ」
「小次郎、行っちゃったね」
まただ。
また、ハナの存在を忘れてしまっていた。
ハナだって大切な友達で、か弱い女の子だってのに。
ーーあいつのことばっかり、考えてるからだ。
思わず額に手を当てると、ハナが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「なっちん、大丈夫?」
「ごめんねハナ。せっかく楽しんでたのに」
ハナは首を左右に振った。
「私は平気。でも、なっちんは平気じゃないでしょ。すごく淋しそうだよ」
「え……」
ハナの華奢な手が、那津の手をぎゅっと握ってくる。
「小次郎が帰ってくるまで、ここで待ってようよ」
「うん……そうだね」
ともだちにシェアしよう!