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すれ違う心 6
その場に座り込んでしまった小夜香を放っておけなくて、那津は手を差し出す。
「……放っておいてよ」
「でも、注目浴びちゃってるし」
一連の騒動の後、店内はざわざわと落ち着かない雰囲気だ。
小夜香だけでなく、那津やハナまで好奇の視線にさらされている。
いたたまれなくなって、那津は強引に小夜香を立たせようと、腕を引っ張った。
「触らないで!」
掴んだ腕を振り払われ、那津の頬にピリッと痛みが走る。
小夜香の長い爪が当たったのだ。
「なっちん、血が……」
「ああ、平気だよこのくらい」
那津には、小夜香がとぼけたり誤魔化しているようには思えなかった。
それに、小次郎が毎年学祭に来ているなら、牛谷とニアミスの可能性は容易に想像できることだ。
そりゃ、那津の周辺をゴソゴソ探ったことは褒められることではないが、そこまでやるとは思えなかった。
「悪いけど謝らないわよ」
「……いいよ、別に」
執事の恰好をした連中にも、動揺が広がっていた。
4年生の小夜香がこの状態で、混乱の最中なのかもしれない。
その中の男性が一人、こちらに近づき小夜香の傍らに立った。
見かねて様子を見に来た、というところだろうか。心配そうに小声で話しかけている。
「あたしが、何したって言うのよ……」
小夜香は顔を上げると、那津をキッと睨んだ。
「あんたのせいよ! あんたが現れてから、小次郎が変わっちゃったのよ!」
「……そりゃまあ、見た目は変えたけど」
あれだけの超ダサ男を、誰もが振り向くようなイケメンに変身させたのだ。
感謝されることはあっても、怒りをぶつけられる覚えはない。
「今まで、他人に興味示さなかったのに、あんたのせいで!……」
この場合、謝るべきなんだろうか。
けれど、怒りをぶつけられても、不思議と腹は立たなかった。
むしろ小夜香が気の毒に感じた。
那津だって、もしも小次郎に睨まれた上あんなに冷たい言い方をされたら、ショックで声も出せないかもしれない。
いや、ひょっとしたら寝込むかも……。
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