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すれ違う心 7

「ねえ、消えてよ。お願いだから小次郎の前から消えて……」 那津は、涙を堪えて震えている小夜香に 「ごめん……」 そう告げるのが精一杯だった。 辛抱強く見守っていた男性に支えられ、小夜香はようやく立ち上がり、ゆっくりその場を離れて行く。 ーー消えて……か。確か、あの牛谷ってヤツにも言われたな。 那津はこれまで、付き合った女の子たちとは円満に別れてきた。 その分ドライな関係だったのは否めないし、彼女たちの本音まではわからないけれど、少なくとも那津はそう思っている。 ――人生で初だよなあ。色恋沙汰でややこしくなるなんて……。 ナチュラルにそう考えて、ふと、あれ? と思う。 ――俺と小次郎と小夜香さんで、色恋沙汰は違うか。それなら絢華のことで牛谷に因縁つけられたことの方が当てはまるよな……? けれど、実際小夜香は那津を敵視していて、那津と小次郎の仲を引き裂こうと企む、いわば天敵ような相手だ。 小次郎への感情が、友情とは別の括りのような気がする今日この頃だからって、うっかり、小次郎との関係を恋愛関係のカテゴリーに入れるのはおかしい。 ――やっぱり、俺と小次郎の関係って、何て言えばいいんだろうな。 *    その後、約束を守って言われた通り店内でおとなしくしていたが、小次郎は一向に戻ってくる気配がなかった。 一方のメイド執事喫茶はというと、小夜香が戻ってから約十五分後にはショーを再開していた。 すっかり身だしなみを整えた小夜香は、店内を忙しそうに動き回っていた。 数分前の出来事が嘘のように。 努めて那津たちの方を見ないようにしているのか、一度も視線は合わなかった。 那津も、いい加減長く滞在するのは気まずいので、ハナを連れて外へ出る。 そして、小次郎を捜しに二人で大学構内を歩き回ってみたけれど、その姿を見つけることはできなかった。 ハナが、眉を八の字にして那津を見上げる。 「コジロ―、だいじょうぶかな」 「うん、あいつのことだから大丈夫、心配ないよ」 そう言ってみたものの、不安は拭えなかった。 小次郎の携帯にかけてみたが着信音が虚しく鳴り響くだけで、メッセージも入れられない設定になっている。 しかたなくメールを送ったが、返信はまだない。

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