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秘密 1
那津は、小次郎の顔を見るまで安心できなかったが、とりあえずハナを送るために駅へ向かった。
「小次郎ってさ、頭が良くて、見た目は王子様みたいにカッコいいだろ。ハナの理想に近くない?」
電車に揺られながら、ハナはゆっくり首を傾げる。
そして、しばらく考えるような仕草の後、
「コジローは、なっちんの王子様だと思うよ」
「……へっ?」
ハナは、レースのワンピースの裾をひらひらさせながら、真剣な声色で言った。
「白馬に乗った王子様だよ。なっちんの」
「は、ハナ? えーと、俺の王子様って……なんでそう思うの?」
「だって、コジローと一緒にいるなっちんが可愛くて、びっくりしたんだもん。小次郎もなっちんが大切なんだよ。すごく優しい目で見てたよ」
それは、気づいてた。つーか、知ってた、けど。
「コジローに会うまでは私のこと気にかけてくれるいつものなっちんだったのに、コジローに会った途端、私のこと忘れちゃうし、コジローのことしか見てないし」
「えっ! あっ……そ、それは……」
――図星すぎて、なんも言えねえ。
「ごめん……」
「謝らなくていいよ。なっちんの気持ちよくわかるよ。……私も、好きな人いるから。その人しか見えなくなる気持ち、すごくわかるもん」
頭を下げていた那津は驚いて顔を上げた。
車窓を見つめるハナの横顔が、気のせいではなく、いつもより大人っぽく見える。
毎日のように一緒にいたのに、まったく気付けなかった。
「そっか……ハナにも好きな人、いるんだ」
するりと、自然に自分の口から出た言葉だった。
――『ハナにも好きな人』……俺、にも……。
言葉にしてみて、妙に納得できた。
ただの友達じゃ足りなくて、親友でもなくて。
ぴったり当てはまるカテゴリーがないと思い込んでいた。
自分たちは男同士だから。
そうだ。
小次郎は男で、那津も男だ。
那津は、盛大に深いため息を吐いた。
「でもさ――……俺も小次郎も、男、なんだよなあ」
「大丈夫、魂に性別はないんだって。素直になって頑張れ、なっちん。あの小夜香さんて人に負けちゃだめ」
「……うん」
――魂……。
ハナに言われると、妙に説得力を感じる。
そうか、大丈夫なのか。
いや、まずいだろう。いろいろと。
でも――。
今は、ハナの言葉に縋りたい気分だった。
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