81 / 132
秘密 3
「だろ? 服のセンスもオタクっぽくて最悪でさ、頼まれて俺が大改造したんだよ。買い物行って、美容院連れて行って、コンタクトにしてさ」
「それなら、小夜香さんはなっちんに感謝したでしょ。好きな人がカッコよくなったら嬉しいもん」
「え……」
そういえば、別人のようにカッコよく変身した小次郎を見て――小夜香は驚いていたか? ……いや、那津が初めて小夜香に会った時は、そんなそぶりは見られなかった。
その前に小次郎と対面していたとしても、その話題が出なかったし勝手に那津の学校へ現れた時も、その事には一切触れなかった。
家政婦のタナカさんも、とくに驚いていなかった。
あの時の感じでは、小次郎は久しぶりに実家に帰った様子だったのに。
まあ、タナカさんは立場上、那津(客人)の前だからあえて言わなかった可能性もある。
(小次郎が那津を『師匠』と紹介した時、見事に自然にスルーした経緯があるし)
――でも……。おかしくないか? 何年も驚愕のダサ男だった身近な人間が、超絶イケメンになったら、数日はその話題で盛り上がらないか? 普通。
例えば、もし那津と小次郎の立場が逆だったなら、那津の姉などは数か月大騒ぎしそうだし、手伝ってくれた小次郎にお礼を言うために会いに行くかもしれない。
「どうしたの、なっちん。眉間にしわが寄ってるよ」
「え? あ、いや……なんでもない」
頭の中は違和感と疑問でぐるぐるしていたが、そろそろハナの最寄り駅に着くので、那津は無理やり平静を装う。
「じゃあね、なっちん。今日はありがとう、すごく楽しかったよ」
「ならよかった。またね、気を付けて」
ホームで手を振るハナに見送られながら、電車が動き出す。
那津は、小次郎と出逢った時のことを、鮮明に思い出そうとした。
小次郎に出会う前の自分が、毎日どんな気持ちで過ごしていたのか思い出せないほど、濃い日々の連続だった。
でも、よくよく考えれば、知り合ってからまだ二ヶ月なのだ。
急速に親しくなったから忘れていたけれど、小次郎との出逢いは、それだけ強烈なものだったといえる。
「あいつ、俺に何を隠してるんだ……」
ともだちにシェアしよう!